昨日の為替市場は、比較的ボラティリティ―が低かった。ドル円は続落したものの、米ドルは対ユーロ・英ポンド・その他主要通貨で上昇した。豪ドル、NZドルの急騰が特に大きく、3週間で最大の対米ドル上昇となった。8日に材料となるような米国経済指標の発表はなかったものの、株式の反発により堅調な値動きとなった。中国貿易収支が予想を上回り好調でであったことも、豪ドル・NZドルの回復材料となった。
そんな中8日の市場で大きく注目されたのは、トランプ米大統領の米ドルに対する発言だ。同氏はツイッターで以下のように述べている。
「米大統領として、この米ドル高状況を私が恐れていると考える者もいるだろうが、そんなことは決してない。他国と比較して高いFRBの政策金利により、我が国が誇るキャタピラー(NYSE:CAT)、ボーイング(NYSE:BA)、ディア・アンド・カンパニー等の偉大な製造業が、競争力を保つことが難しい状況が続いている。量的引き締めを行わず、FRBによる大幅な利下げを実施することで、そうした企業が競争力を得るような米ドルレートとなる。我が国は他の追随を許さないほど優れた企業を持つが、残念ながらFRBに関しては同様ではない。彼らが毎回誤った判断をしてきても、我らは勝利してきた。彼らが正しい判断をしたらどうなるか、想像がつくだろうか」
米ドル安への希望を発信することで、トランプ米大統領は米財務省に為替介入を命じることを示唆してしまっているのではとの懸念が市場で広がった。同氏が中国を「為替操作国」だとツイッターで非難した翌日、米財務省がそれを公式に認定したのと同じ流れだ。
ドルへの介入は悪手
トランプ米大統領は米ドルを切り下げることで、米輸出品の価格競争力強化と米国企業の海外収益のドル建て価値を高めることを謳うかもしれない。しかし米ドル介入は物価が吊り上がり、市場の(ボラティリティ―)が高まることでFRBの政策展開がより困難になるという結果を招くため、いくつか予想できる中でも悪手である。もしトランプ大統領の主な狙いがFRBに追加利下げ圧力を欠けることであるならば、米中貿易摩擦を激化させたことで既に達成している。市場は、世界経済の減速及び2回の年内追加利下げを見込んでいる。
もしトランプ米大統領が米ドルを切り下げれば、海外収益の上昇は株価低迷と国内需要低下によって打ち消されると見られる。
また、為替介入は中央銀行との密接な連携が無ければ滅多に成功しない。もしFRBが為替介入を不胎化すれば、影響は限定的なものとなる。もっとも株価が急落すれば、いずれにせよ比較的安全な米ドル需要は高まる結果となる。
もし為替介入が中国への対抗手段として考えられているなら割に合わない。中国は更なる奥の手を有しているからだ。中国政府は米ドル安を防ぐため、3兆ドルの外貨準備高を有する。一方で米国による為替介入は、1000億ドルの為替安定資金より行われる。トランプ米大統領は更なる資金を投入することも可能だが、それには議会の承認が必要となる。
8日の米ドルと株価の値動きから考えると、市場は為替介入リスクを織り込んでいない。前例もなければ危険すぎるという事で実行される確率は低いと市場は踏んでいるが、トランプ米大統領は慣習を打ち破る事が好きであり、強行突破の道を見つける可能性も否定できない。