新型コロナウイルスによる世界的なリスク回避の動きは、サウジアラビアが全く予期していなかったことだ。
12月にはOPECで協調減産拡大で合意したものの、現在はコロナウイルスという新たな懸念材料に直面している。
27日午後、WTI原油は16週ぶりの安値である1バレル当たり52.19ドルとなった。これを受け、今後50ドルを下回るとの予想が強まっている。英ブレント原油は60ドルを下回り、14週ぶりの安値である58.68ドルとなった。
原油下落はいつ終わるのか
たった1週間でWTI原油は11%安となり、月次では13%安となる見込みである。ブレント原油は週次では約9%安、月次では約11%安となる見込みである。
原油市場の下落は、コロナウイルス感染者の爆発的な増加に端を発した。中国当局によると、中国国内の感染者は2700人以上、その内重病患者は461人以上、死者は最低でも80人程とのこと。
中国当局の発表からは、状況が刻一刻と悪化していることが窺える。コロナウイルスの発生源である武漢は、実質的に閉鎖されている。医薬品や病床が不足しており、事態は深刻である。
何億人もの中国人旅行者が立往生しており、旧正月(春節)は2月2日まで延長された。上海ディズニーランドや映画館、マクドナルドなどは閉鎖されており、レジャー・旅行業界への影響は大きいだろう。
中国以外では、オーストラリアやカナダ、フランス、日本、マレーシア、ネパール、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナム、米国の12カ国でコロナウイルスの感染が確認されている。
その影響は原油市場に留まらない。24日のS&P500は約1%安となった。米株式市場における強気相場が崩れる可能性がある。
サウジ、原油下落の阻止へ動く
しかし、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は動揺を見せず、コロナウイルスを一時的な問題であるとした。
「(市場は)心理学的要因やネガティブな見通しによって突き動かされている。しかし、コロナウイルスが原油需要へ与える影響は限定的である」とアブドルアジズ・エネルギー相は27日に述べた。
9月にアブドルアジズ氏はエネルギー相へ就任した。同氏は原油価格を「安定的な高値」にすることへ取り組んできた。WTIが65ドル、ブレントが71ドルを超えた時、その取り組みは成功したように思われた。
OPECは12月、協調減産を1日当たり120万バレルから210万バレルへ拡大したが、既に忘れ去られている。また、米イラン間の緊迫化も既に眼中にないだろう。週末にバグダッドの米国大使館へロケット弾が着弾したが、市場は無反応である。
他方、アブドルアジズ・エネルギー相は、2020年までにOPECプラスが協調減産で合意する可能性が高いことを示唆した。
さらに同氏は、2003年に発生したSARSを例に出し「原油需要が大きく減少することはない」と述べた。
2003年と今の中国
現在の中国は17年前とは大きく異なっている。2003年の中国におけるGDPは世界第6位であり、原油需要は1日当たり約500万バレルであった。
現在の中国は世界第2位のGDPを誇り、原油需要は1日当たり約900万バレルとなった。つまり、サウジアラビアの産油量のほぼ90%を消費している。
つまり、中国におけるコロナウイルスの拡大が長期に渡る場合、それだけ産油国も大きい影響を被る。また、2週間前に調印された米中貿易の第1段階合意によると、今後2年間に渡って中国は、原油などのエネルギー製品を520億ドル分米国から輸入しなくてはならない。
もちろん中国のコロナウイルスが、2年間も続くとは全く予想されていない。しかし、中国からの原油輸入が早急に回復しない場合、原油価格への影響は免れないだろう。
オアンダのシニアマーケットアナリストであるJeffrey Halley氏は「コロナウイルスの抑制について具体的な進展が見られない限り、原油需要は軟調なままであろう」と述べた
金は1600ドルを視野に
他方、安全資産である金価格は上昇基調にある。先週から金価格は反発してており、金直物と金先物はカギとなる1580ドルを突破した。今後、1月上旬に記録した1600ドルを上回る可能性がある。
今週29日のFOMC声明に、貴金属の投資家からの注目が集まっている。しかし、米経済は堅調に推移しており、声明の大幅な変更は考えられていない。