※この記事は2020年1月30日に投稿されました
先週は、新型コロナウイルスの拡大の懸念が金融市場を襲った。
先週の段階では感染人数の正確な把握や、今後の感染スピード、各国の検疫対策の妥当性などが不明瞭な中、米国株式市場はコロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大を受けて世界の経済鈍化の懸念が強まり下落していた。
新型コロナウイルスの感染拡大に関する憶測は憶測を呼び、混乱状態にある。結果、原油価格や、世界経済、特に中国経済(労働、生産、輸送)に関する予測を難しくしている。
近々、新型コロナウイルスがアウトブレイクした場合の経済活動の打撃に関するより詳細なデータがあがってくるだろう。
以下は、現在の段階で新型ウイルスが原油市場に与える影響についての考察である。
SARSとの比較
新型コロナウイルスの発生は、2003年に蔓延したSARSを連想させた。SARSが大発生した2003年の金融市場は大きく下落することとなった過去があり、その連想は今回の下落を導いたと言っていいだろう。
SARSと新型コロナウイルスの比較は、どれくらい世界経済に影響をあたえるかという観点では妥当性は低い。
なぜならSARSが中国でアウトブレイクした2003年は、米国ではイラク戦争が勃発していたからである。このウイルスと戦争が与えた金融市場への影響を切り離して分析することは難しい。
すでに打撃を受けている産業
世界保険機関(WHO)は新型コロナウイルスについて「緊急事態」を宣言し、世界経済と原油市場への大きな影響の見込みが明るみになりつつある。新型ウイルスはすでに、航空会社とジェット燃料に打撃を与えている。
ユナイテッド航空(NASDAQ:UAL)、エア・カナダ(NASDAQ:UAL)、アメリカン航空(NASDAQ:AAL)、ルフトハンザドイツ航空(OTC:DLAKY)、ブリティッシュ・エアウェイズ(OTC:BABWF)、キャセイパシフィック航空(OTC:CPCAY)などは、中国便欠航を決定している。
中国と欧米間での飛行では多くのジェット燃料が使用される。中国ではないが、例として東京ーロサンゼルス間の片道のフライトでは、約9500ガロンが使用される。これは約226バレルである。今後も中国便の運行見合わせが相次ぐことが予想され、ジェット燃料の需要が大きく落ち込む可能性がある。
OPECは頭をかかえる
新型ウイルスの影響は、OPECにとっても懸念事項でもある。
OPECと非加盟産油国の国々は、第1四半期の減産によって、第1四半期と第2四半期の弱い需要の見込みを乗り切ろうと考えていただろう。次回のOPEC総会(臨時総会)は3月に予定されているが、この総会では減産を6月まで延長することが予想される。そして今回の新型ウイルスは、引き続き原油価格の下落を招くことが推測される。
またOPEC加盟国のアルジェリア石油相のMohamed Arkab氏は、現在予定されている3月の総会は、2月に前倒しされる可能性を述べている。
投資家はOPECはパニックに陥っているのかどうか伺っている。サウジのエネルギー相は数日前、OPECは原油市場の動向を注意深く監視していると述べたが、具体的な対応については述べられなかった。OPECプラスの減産強化は上手く機能しておらず、次回のOPEC総会の緊急決定がどれくらい原油価格の安定に寄与するのか不明瞭である。また、リビヤとイラクの一部生産停止の報道があっても、一時的な上昇となった後で原油価格の続落が続いている。
今後数週間-数ヶ月で、新型コロナウイルスが引き続き金融市場を左右する要因となるならば、原油トレーダーは産油国のニュースよりも、疫学に詳しくなる必要があるかもしれない。