[ロンドン 19日 ロイター] - ロシアがウクライナに侵攻した場合、小麦からエネルギー、両国のドル建て債、「安全資産」、株式に至るまで、幅広い市場に影響が広がりそうだ。影響を受けそうな5つの主要分野についてまとめた。
(1)安全資産
大きなリスクイベントが起こると、安全資産とみなされる債券に投資資金が戻るのが通例で、今回も例外ではないかもしれない。ロシアがウクライナに侵攻すれば石油価格が一段と上昇してインフレをあおる恐れもあるが、それでも通常のパターン通りになりそうだ。
外為市場では、ユーロ/スイスフランが地政学的リスクの最大の指標になるとみられ、実際、1月末には2015年5月以来のユーロ安スイスフラン高水準を付けた。スイスフランは以前から安全資産と見なされている。
同じく安全資産とされる金 は1年1カ月ぶりの高値水準を付けている。
(2)穀物
黒海一帯からの穀物輸出に支障を来せば、相場への影響は大きく、食品インフレをさらに加速させかねない。折しもコロナ禍の影響で、世界的に供給問題が大きな懸念材料となっている。
穀物の主要輸出国であるウクライナ、ロシア、カザフスタン、ルーマニアは黒海の港から穀物を輸出している。何らかの軍事的行動や制裁が現実化した場合、これらの港は混乱に見舞われかねない。
国際穀物理事会のデータによると、ウクライナは2021―22年シーズンにトウモロコシ輸出で世界第3位、小麦輸出で第4位となる見通しだ。ロシアは世界最大の小麦輸出国。
(3)天然ガスと石油
ウクライナを巡る緊張が紛争に発展すれば、エネルギー市場に打撃が及ぶだろう。欧州は天然ガスの35%をロシアに頼っており、その大半はパイプラインで送られている。
ロシアがウクライナに侵攻した場合、ロシア産天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン、「ノルドストリーム2」を停止する可能性をドイツは示している。
制裁が発動されれば、ロシアからウクライナとベラルーシを通って西欧に輸出される天然ガスは大幅に減るとアナリストは予想している。
石油市場も制裁措置や供給混乱の影響を受ける可能性がある。ウクライナはロシア産石油をスロバキア、ハンガリー、チェコに移送している。
JPモルガンは、ウクライナ情勢が緊迫化すれば石油価格は「急上昇」する恐れがあると指摘。仮に1バレル=150ドルに達すれば、今年前半の世界の総生産(GDP)伸び率は年率わずか0.9%に押し下げられ、インフレ率は2倍以上の7.2%に跳ね上がるとの見通しを示した。
(4)企業への影響
西側の上場企業にも影響が及びそうだ。ただエネルギー企業の場合は、収益に打撃が及ぶとしても石油価格の急上昇によって一部相殺される可能性がある。
石油大手の英BP、シェル、米エクソンモービルなどは、権益や子会社を通じてロシアの石油・天然ガス事業に大きく関わっている。
金融機関への影響は、ロシアで事業展開している欧州銀に集中しそうだ。
国際決済銀行(BIS)のデータで西側銀行によるロシア向け融資の規模を見ると、フランスが242億ドル、オーストリアが172億ドルで最も大きい。次いで米国が160億ドル、日本が96億ドル、ドイツが88億ドルの順となっている。
この他、仏自動車大手ルノーや独小売り大手メトロがロシア事業で一定程度の利益を得ている。
(5)ロシアとウクライナの金融資産
軍事行動に発展した場合、一番に影響を受けるのはロシアとウクライナの資産だろう。
両国のドル建て債はここ数カ月、他の債券に比べてアンダーパフォームしている。
また年初来、ウクライナの通貨フリヴニャは新興国通貨の中で最悪のパフォーマンスを示し、ロシアのルーブルは最悪から5番目に位置している。