Olena Harmash
[キーウ 6日 ロイター] - ウクライナは2年続きで長時間の停電を強いられる冬を迎えようとしている。ロシアのミサイル、ドローンによる容赦ない攻撃により、エネルギーシステムのあちこちで1年前よりも脆弱(ぜいじゃく)な状態が見られるためだ。
夏の数カ月、数千人のエンジニアは破壊された設備の修理に没頭し、気温が低下し始める頃には、防空体制の改善により戦争の影響は緩和される可能性がある。
だが、冬への備えを完了するには財源も時間も足りない。つまり、数百万人ものウクライナ国民が明かりも暖房も水もなしに長い夜を過ごす状況が昨年以上に増え、企業や経済全体にとっての苦痛も増すことになる。
欧州連合(EU)で新規加盟希望国に対応する部門でエネルギー担当チームを率いるマーカス・リッポルド氏は、「破壊されたものを修理するだけで多くの労力が費やされた。レジリエンス(障害復旧力)を高められたか、昨年の冬より状況が改善されているかというと、そうは思わない」と語る。
リッポルド氏はEU本部で、「大変な努力が行われたし、成功もしている。だが、それを続ける必要がある」と語った。
ウクライナは、ロシアが一般市民に最大限の苦痛を与えるために意図的にエネルギー関連施設を破壊していると非難しているが、ロシア政府はこれを否定し、攻撃のターゲットは市民ではなく、軍事関連施設に限られていると主張している。
被害は甚大だ。ウクライナは、エネルギーシステムに対する攻撃の影響について、詳細なデータは戦時下における機密情報であるとして公開していない。
だが国連の6月の推計では、ウクライナの発電能力は、2022年2月のロシアによる本格的な侵攻開始以前に比べて約半分に低下している。37ギガワット近い発電能力のうち、19ギガワット以上が破壊されるか損傷を受け、占領されたものもある。
キーウ経済大学研究センターでは、ウクライナのエネルギー関連インフラに対する直接的な損害は、6月の時点で88億ドル(約1兆3100億円)に達すると試算している。
昨年、気温が摂氏0度を大きく下回り暖房が使用される10月から3月までの時期、前戦から離れて暮らす平均的なウクライナ人の場合、約35日間を電力なしで過ごした。停電すると、水道水の供給にも影響が出やすい。
昨年冬は幸いにも寒さが比較的穏やかで、エネルギーインフラの迅速な修理、原子力発電、欧州諸国からの電力輸入もウクライナを支えた。だが当局者の中には、この冬はもっと条件が厳しくなるという予想もある。
ウクライナ西部に位置する人口約100万人の都市リビウのアンドリー・サドビー市長は8月、東部・南部の最前線からは遠く離れているとはいえ、同市でも最長2カ月は停電を覚悟すべきだろうと語った。
シンクタンク「エネルギー産業研究センター」のオレクサンドル・ハルチェンコ所長は、「厳しい状況になるかと問われれば、答えはイエスだ。電力供給制限も実施されるだろう」と述べた。
<「誰もが備えている」>
ウクライナ国内需要の約4分の1を担う民間最大のエネルギー企業DTEK(ディーテック)では、火力発電所その他の施設が、ロシアによる侵攻開始から20カ月近く、ミサイルやドローン、砲撃による打撃を繰り返し受けている。
ディーテックの業務執行取締役であるドミトロ・サハルク氏はロイターに対し、同社は冬に備えて広範な修理作業を行っているが、一部の発電所は非常に大きな損傷を受けているため、復旧までにさらに時間がかかっていると述べた。
「確かに、信頼性のレベルは(昨年よりも)低下しそうだ」とサハルク氏は言う。
とはいえ、サハルク氏によれば、ディーテックでは発電所を守るため、土のうやコンクリートブロック、石を詰めた籠やドローン突入防止用の鉄格子を設置しているという。
ウクライナのシュミハリ首相は、同様の対策が全国的に実施されていると述べている。
さらに首相は、冬に備えて7基の原子力発電所が待機しており、さらに2基の修理も仕上げの段階に入っているという。昨年、ウクライナの発電量の約60%は原子力によるものだった。
ウクライナ国営送電会社ウクレネルゴのトップ、ボロディミル・クドリツキー氏は、エネルギーシステムの中でも最も損傷の大きい部分の1つである主力グリッドについて、冬季の必要電力量を送電する体制が整っていると語る。
「攻撃のターゲットとなる前に比べ、エネルギーシステムの信頼性は低いし、予備能力も小さい」とクドリツキー氏。「だがその一方で、ロシアによるテロ行為はもはや驚きではないし、誰もがそれに備えている」
国内最大の石油・天然ガス企業であるナフトガスのオレクシー・チェルニショフ最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、ウクライナは1991年の独立後初めて、輸入に頼らずに冬を乗り切るだけの天然ガスを備蓄していると語った。
国内エネルギーシステムのレジリエンスを高める対策の1つとして、政府は同セクターの地方分権化に着手しており、欧州からの電力輸入を可能とする合意にもこぎ着けている。侵攻前は、ウクライナは電力純輸出国だった。
一部の企業や都市では独自の発電能力を構築し始めており、可能であれば再生可能エネルギーによる小規模発電を採用し、発電機を設置している。
ウクライナでは企業、個人を問わず何万台もの発電機を輸入しているが、石油備蓄に対しても散発的な攻撃が行われており、発電機を動かす燃料の供給が脅かされている。
キーウの西にある小都市ジトーミルのセルヒー・スホムリン市長は、「現在、市内の地域暖房事業者と水道会社は83台の強力な発電機を用意している」と語る。
「安定して発電機を動かし続けることは不可能だ。しかし、数時間にわたって完全に停電することがあっても、暖房を供給することは可能だろう」
(翻訳:エァクレーレン)