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アングル:制裁下のロシア市民 資産凍結で当惑、外貨無縁の人も

発行済 2023-02-22 07:58
更新済 2023-02-22 08:01
© Reuters.  欧米各国などによるロシアへの経済制裁により、同国の銀行の収益は圧迫され、多くの金融機関では国際事業が壊滅状態に陥った。ロシアによるウクライナ侵攻開始以来1年。普通のロシ

[モスクワ 17日 ロイター] - 欧米各国などによるロシアへの経済制裁により、同国の銀行の収益は圧迫され、多くの金融機関では国際事業が壊滅状態に陥った。ロシアによるウクライナ侵攻開始以来1年。普通のロシア人にとってはどの程度の影響が生じているのだろうか。

ズベルバンクなど最大手のリテール銀行にルーブル建てで預金している大多数の国民は「たいした影響はない」と答える。

ウラル地方の都市エカテリンブルクでタクシー運転手として働くブヤチェスラフ・ファティコビッチさんは「自分にとっては何も変わっていない」と話す。

「変化があるとすれば、クレジットカードで支払う乗客が減り、現金払いが増えたことくらいだ」

ロシアの通貨当局は資本規制により全面的な取り付け騒ぎを何とか回避し、ルーブルの供給は引き続き潤沢だ。昨年の早春には現金自動支払機(ATM)に長蛇の列ができたが、それも過去の話だ。

だが他国への旅行者や、他国に資産を保有、あるいは外貨や外貨建ての証券を保有している人にとっては、以前より面倒な状況が生じている。ロシアの大手銀行が国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から実質的に締め出されてしまったからだ。

<外貨は入手困難に>

外貨預金口座の保有者は、昨年3月9日に導入された制限措置以前に入金された分に限り、1万ドル(約134万円)の引き出しまで認められた。制限措置導入後にハードカレンシー(国際決済通貨)を預金した場合、引き出しはルーブル建てでしか行えない。                                                                                                                 

銀行システムの外部に、どの程度のハードカレンシーが蓄積されているかは推測困難だ。一部では、引き出しの限度額に達することを恐れ、ルーブルを手放してハードカレンシー預金の引き出しを急ぐ人もいる。

匿名を条件に取材に応じた小売企業の従業員は、現金確保に奔走した侵攻開始直後の記憶が生々しく、今でも手元に十分な現金を置いておくようにしているという。

「当時は、自動車で何時間もかけて銀行をはしごした。皆、ドルだけでなくルーブルも引き出していた」

<ロシア、中国のカードが命綱に>

さらに、ビザとマスターカードがロシア国内での事業を停止したことで、ロシアで発行された両社のカードは国外でも使えなくなったため、ロシア独自の決済システム「MIR(ミール)」に殺到する動きが発生した。

ロシアの同盟国であるベラルーシで活動する起業家ダニル・ユシコフさん(45)は、ロシア国内発行のビザとマスターのカードが機能を停止した当時もベラルーシにいたが、十分な現金を持っていたのでパニックには陥らなかったと話す。

「とはいえ手をこまねいているわけにはいかず、モスクワに飛んで、ミールのカードを作ってからベラルーシに戻った。それでようやく、何でもカードで支払えるようになった」

だが、ロシア語で「世界」や「平和」を意味するミールは、他国で逆風にさらされている。トルコなど、対ロシア制裁に加わらなかった「友好的」であるはずの国も、一部で利用を制限しつつあるからだ。

元ジャーナリストのアンドレイさんは、中国のカード「銀聯(ユニオンペイ)」が生命線だと語る。

現在ロシア国外で活動しているアンドレイさんは「すぐさま、ロシアの別々の銀行で銀聯のアカウントを3つ開設した」と語る。「さらに、カザフスタンに行ってマスターカードも作った。この1年間、とても重宝することになった」

<フライドチキンの紙袋にドル紙幣>

自国を離れた多くのロシア人は、政治的見解のせいで処罰されることや、徴兵され前線に送られることを恐れていたが、同時に、自分の資金をどうやってロシアから引き出すかにも悩まざるを得なくなった。

一部の銀行は引き続きSWIFTを利用でき、海外送金も可能だが、手数料や料金は上昇している。そこで人々が目を向けているのが、暗号資産(仮想通貨)などの代替手段だ。

たとえば、世界最大の仮想通貨取引所バイナンスを使えば、ドルと連動する仮想通貨の一種、ステーブルコイン最大手の「テザー」を経由してルーブルを送金することができる。

他の手段でロシアから現金を引き出そうとすると、もっと危ない橋を渡ることになる。

匿名を条件に取材に応じた金融サービスの専門家は、ウクライナへの侵攻開始からまもなくモスクワを離れた。友人に、自分の口座から数百万ルーブルを引き出して、モスクワで1人の男性に会うよう依頼したという。

信頼関係だけが頼りのこの取引は、3時間後に完了した。この人物が宿泊していたドバイのホテルの部屋に1人の女性が、ケンタッキーフライドチキンの紙袋に入った約5万ドルを持って現われたのだった。

<「友好国」でも事情は複雑>

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイには数千人のロシア人が集まっている。「友好国」ではあるものの、銀行口座の開設は一筋縄ではいかない。特に、同国の身分証明である「エミレーツID」がなければ厄介だ。

メッセージアプリ「テレグラム」で「イナ」と名乗るユーザーは、ロシア人向けチャンネル「ハーイ・ドバイ」で、現地の身分証明なしの銀行口座開設について「可能ではあるが、認証プロセスに1─3カ月かかる。その結果は必ずしも予想できるとは限らない」と説明する。

西側諸国がロシア中央銀行との取引を禁止し、約3000億ドル相当の在外資産を凍結したことで、同中銀によるルーブル防衛の能力は限定されているが、こうした制約による影響は個人にも及んでいる。同中銀の資産では、ロシアの個人投資家500万人以上が保有する3200億ルーブル(42億8000万ドル)相当の海外株式が、制裁の結果として凍結されてしまったという。

投資家のスベトラナ・マブリンスカヤさんは「(ウクライナ侵攻が始まった)2022年2月24日から今に至るまで、私たちは自分の資産を失ったままだ。資産は凍結された状態が続いている」

別の投資家のユリア・ザイコバさんは「ロシア中銀も証券会社も、ロシアの投資家のためになることは何もやってくれない」と語る。

© Reuters.  欧米各国などによるロシアへの経済制裁により、同国の銀行の収益は圧迫され、多くの金融機関では国際事業が壊滅状態に陥った。ロシアによるウクライナ侵攻開始以来1年。普通のロシア人にとってはどの程度の影響が生じているのだろうか。写真は、サンクトペテルブルクでATMに並ぶ人々。2022年2月撮影(2023年 ロイター/Anton Vaganov)

同中銀は個人投資家の資産の凍結解除に向けて働きかけていると話している。もっとも、タクシー運転手のファティコビッチさんのような大半のロシア人は、そうした心配とは無縁だ。

「休暇中は海外ではなく、母親のいる田舎に行く」とファティコビッチさん。「ドルを目にしたことはもちろんあるが、自分で保有したことはない」

(Alexander Marrow記者、Elena Fabrichnaya記者 翻訳:エァクレーレン)

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