[28日 ロイター] - アルメニア人勢力が実効支配するアゼルバイジャン南部ナゴルノカラバフ自治州で、両国軍が衝突した。数十年来の係争地において危険な戦闘が再開した格好だ。
◎ナゴルノカラバフとは
旧ソ連アゼルバイジャン領土内の山岳地帯にある、森林に覆われた一角。国際法で同国の一部と認められている。しかし同自治州の推定人口15万人の大半を占めるアルメニア人は、アゼルバイジャンによる支配を拒否している。1990年代の戦闘でアゼルバイジャン軍が撃退されて以降、アルメニア人勢力がアルメニアの支援を得て自治を行っている。1994年の停戦合意にもかかわらず、2016年にも少なくとも200人が死亡した。同自治州の財源はアルメニアからの支援と、世界に離散するアルメニア人からの寄付にほぼ全面的に頼っている。
◎なぜ今、戦闘が勃発したのか
緊張は夏から徐々に高まっており、9月27日に直接衝突へと発展した。衝突のタイミングは重要だ。過去に仲裁に当たったロシア、フランス、米国などの大国が現在、新型コロナウイルス感染症、米大統領選、レバノンからベラルーシに至る数々の世界危機への対応に忙殺されているからだ。7月に低いレベルで衝突が起こった際、国際社会の反応は薄かった。7、8月にアゼルバイジャンと大規模な軍事演習を実施したトルコは、過去の危機に比べても目立った支援を打ち出している。トルコのエルドアン大統領は28日、「資源と心のすべてで」アゼルバイジャンを支持すると表明した。トルコがアゼルバイジャンに対し、軍事専門家やドローン、戦闘機などを提供しているかどうかには直接言及しなかった。アルメニアはトルコがこれらを提供していると主張し、アゼルバイジャンは否定している。
◎リスクは
アルメニア人が同自治州のアルメニア編入を要求した1988年以降、戦闘で約3万人が死亡している。直近の衝突では既に数十人が死亡し、数百人が負傷。専門家は28日、ロケットや大砲など大型兵器の展開が増えていると指摘し、これにより民間人が犠牲になるリスクが高まっており、双方ともに全面戦争の回避が難しくなると警告した。こうした状況がひいてはトルコやロシアなども紛争に引きずり込む恐れがあり、石油・天然ガスのパイプラインが通る重要地帯である南コーカサスが不安定化しかねない。
◎今回の戦闘を停止させるには
ロシアや中国などいくつかの国々が戦闘停止を呼び掛けたが、今のところ目立った効果はない。鍵を握るのはロシアかもしれない。ロシアはアルメニアと相互防衛協定を結び、同国内に軍事基地を持つ一方で、アゼルバイジャンとも良好な関係にあり、紛争拡大は利益にならない。外交が成功すれば、ロシアは戦闘停止の功績で賞賛を浴びることができるかもしれない。ロシアは折しも、不正選挙問題で揺れるベラルーシのルカシェンコ大統領支持や、ロシアの反体制派ナワリヌイ氏の毒殺未遂疑惑などで厳しい批判を浴びているところだ。ロシアのプーチン大統領は27日、アルメニアのパシニャン首相と電話で会談したが、アゼルバイジャンのアリエフ大統領との対話を試みたかどうかは今のところ不明。