杉山健太郎
[東京 13日 ロイター] - 新型コロナウイルス禍にある日本では米国同様、中古車の価格が上昇している。一部の人気車種では在庫日数が短く品薄感が強まるなど、需給バランスが崩れる現象も起きている。一方、米国とは違い、こうした消費者の経済活動は物価統計には表れない。民間エコノミストからは、中古市場の価格を捕捉する必要性が増しているとの見方も出ている。
コロナ下で「3密」回避の移動手段として自動車のニーズが高い状況は、日本も変わらない。中古車販売業界の関係者によると、都会のファミリー世帯ではキャンプ・アウトドアのブームが起きており、これらの「足」として使える車種も人気を集めている。4─6月の中古車登録台数(軽自動車を含む)は前年同期比6.2%増加した。
中古車のオークションを運営するUSS(愛知県東海市)のデータによると、同社が仲介して売買が成立した車両の平均落札価格は前年同月比で4月が39.0%、5月が33.9%、6月が18.8%、7月が13.6%それぞれ上昇した。
半導体不足の影響による新車の納期遅れが解消しきれない中、中古車は、在庫があれば即座に入手できるのが魅力だ。
自動車業界に詳しい東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「新車の人気車種では納車までの時間が長くなっている。需給バランスが正常化し、中古車市場で全体的に価格が落ち着くまで1年程度はかかるかもしれない」との見方を示す。
<実態を映す統計とは>
米国では、中古車価格の急騰が物価を見るうえでかく乱要因の一つになっている。米労働省が発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.4%上昇と、約13年ぶりの伸びとなった6月と同水準だった。
中古車・トラックの価格は同41.7%上昇。新車価格の上昇率は同6.4%だった。
今のところ、物価上昇は一時的との見方が優勢だが、いつまでこの「一時的」な現象が続くのか、警戒感も聞かれる。
これとは対照的に日本のCPIでは、中古車の価格が直接的には反映されていない。総務省が発表しているCPIで「自動車」に区分されているのは軽乗用車、小型乗用車、普通乗用車A(国内メーカー)、普通乗用車B(海外メーカー)の4品目。
それぞれの価格は毎月の小売物価統計で調査したものを用いる。そこから個々の品目の指数を計算し、ウエイト(家計の消費支出に占める割合)で加重平均して指数を出している。
総務省の担当者は「中古車は、同じメーカー・同じ車種でも走行距離や傷の状況、車内の状況などで価格が大きく変わってくる。新車の代表的な車種の価格を調べ、それに中古車の価格も代表させている」という。
ただ、この方式だと、新車価格に比べて、中古車価格だけが急激に上昇した場合、その価格の動きを正確には把握できないことになる。このほか、日本のCPIでは最もウエートが大きい「持家の帰属家賃」で家賃の経年変化を踏まえた品質調整を行っておらず、物価に下押し圧力がかかりやすいという点も一部で指摘されてきた。
総務省も実態を反映するため、より幅広く価格を把握する努力をしているが、消費行動の多様化は進んでいる。大和証券の末広徹シニアエコノミストは、中古車に限らず「ネット通販の取引拡大により、衣料品や日用品の中古市場も膨らんでいる」といい、中古市場の価格捕捉の必要性は増していると話す。
(杉山健太郎 編集 橋本浩)