■業績の動向3. 主要KPIの状況シュッピン (T:3179)が2017年3月期と2018年3月期にわたり、売上高の拡大のための施策として取り組んできたのがOne-to-Oneマーケティングだ。
これは、一般的には不特定多数の顧客に画一的に行われているマーケティング活動を、“パーソナライズ”すなわち、各個人のニーズに合わせて必要な情報を提供する形にするというものだ。
そのためには顧客ニーズを把握する仕組みから作り上げる必要があり、同社は2年間をかけて段階を踏んで仕組みづくりに取り組んできた。
最終的に、2018年3月期に“パーソナルレコメンド”の仕組みが完成し、One-to-Oneマーケティングの全体が完成した(One-to-Oneマーケティングを始めとする同社の売上拡大プラットフォームの詳細については、2019年1月17日付レポートを参照)。
One-to-Oneマーケティングの完成で売上拡大のためのプラットフォームは大きく進化した。
それに伴い、同社の状況をモニターするためのKPI(重要経営評価指標)も変わってきている。
かつては中古品比率や販売チャネル別(ECか店舗か)の動向などに注目していたが、同社の収益モデルが進化した現在、それらはもはや“結果”以上の意味はないと弊社では考えている。
現状分析に有効な、あるいは先行性のあるKPIとして以下の指標に注目している。
(1) Web会員数同社は、取引する顧客を「Web会員」として管理している。
Web会員数の動向については以下の2つの点が重要と弊社では考えている。
1つは新規会員、すなわち新規顧客数の動向だ。
セールなどの販売促進策やECシステムの仕組みづくりなどの営業努力の成果がここに表れると考えられる。
もう1つは総(累計)会員数だ。
これは同社が積み重ねてきたアセットと言える。
会員は継続的・反復的に取引するアクティブ会員と、一定期間以上取引実績のない非アクティブ会員とに分けられるが、総会員数の一定割合がアクティブ会員になるという仮説が成立する条件においては、総会員数は大きな意味を持つことになる。
2019年3月期は、各四半期の新規会員数が継続して10,000人を超え、第4四半期には13,000人超と、四半期ベースでの過去最高を更新した。
その結果、期末の総会員数は406,981人と40万人を突破した。
ECサイトにおける情報の充実や、後述するCGMマーケティングのための施策ともあいまって、同社の各商材のブランドは着実に認知度・知名度が高まっており、新規会員の増加ペースが加速しつつある。
(2) 購入会員数とアクティブ率購入会員数は、各四半期に同社の自社サイトで購入した会員のうち新規会員を除いた数、すなわち既存会員の中の現に購入した会員ということだ。
アクティブ率は各四半期始めの会員数に対するその四半期の購入会員数の割合だ。
同社は総会員数の増大に伴い、既存会員の活性化により大きな期待をかけている。
理由は効率性の高さだ。
目下、月間3,000人台のペースで新規会員が増加しているが、総会員数が40万人を超えた今、新規会員の増加率は年間10%弱(すなわち増収率も10%弱)でしかない。
他方、既存会員で現にアクティブな会員がもう1回購入を増やした場合には、売上高を30%押し上げるとの試算結果を得ている。
購入会員数とアクティブ率をトラックする意味はここにある。
これまでの推移を見ると、購入会員数は着実に右肩上がりで推移している。
アクティブ率は分母の会員数自体も増加しているため購入会員数ほど明確ではないが、4%台をキープしながら、こちらもトレンドラインは緩やかに右肩上がりとなっていることが読み取れる。
(3) 中古カメラ買取額の状況中古カメラの買取額は、同社の中核ビジネスであるカメラ事業の動向を見る上で非常に重要だと考えている。
同社のビジネスモデルの特長は、中古品が新品販売のカタリスト(触媒)として働き、新品と中古品の売上を拡大させていく点にあると考えているが、これは純粋な工業製品であるカメラにこそ良く当てはまる。
2019年3月期は、新品カメラの伸び悩みを補うために中古カメラの買取りに注力した。
具体的には本来の価格よりも買取価格を引き上げる施策を実施した。
その結果、買取額、買取件数は狙い通りの水準を達成したが、反面、それは仕入原価上昇による利益率の低下につながった。
買取価格が通常よりも割高な状況は第2、第3四半期の間続き、買取額も上昇したが、第4四半期には適正な水準に戻した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)