[ニューヨーク 11日 ロイター] - 米企業は、景気後退や米大統領選に伴う相場の変動に見舞われる前に、株と債券の強気相場を最大限活用しておこうと、新規株式公開(IPO)や社債発行に奔走しているようだ。
ルネッサンス・キャピタルの推計によると、約70社が米証券取引委員会(SEC)にIPOを申請している。またディールロジックの統計によると、総額720億ドルの投資適格級社債が先週、発行された。これは8月の発行総額にほぼ並ぶ規模だ。
こうした動きの背景にあるのは、世界経済を圧迫する米中通商紛争、30年物米国債利回りの過去最低更新、世界経済の減速懸念──といった状況だ。米供給管理協会(ISM)が公表した8月の製造業景気指数は景気拡大・縮小の節目となる50を3年ぶりに割り込んだ。
その結果、アップル (O:AAPL)やウォルト・ディズニー (N:DIS)のように何十億ドルもの手元資金を保有している企業でさえ、新たに社債を発行し、投資家の債券に対する需要が強いうちに借り入れコストを過去最低水準に固定する好機を生かしている。
PGIMフィクスト・インカムのマルチセクター戦略部門を率いるグレッグ・ピーターズ氏は、借り入れの機会がいつ閉ざされてしまうか分からないため、企業は今のうちに動いていると説明した。
企業の借り入れの増加は17日に始まる連邦公開市場委員会(FOMC)で主要な議題となりそうだ。CMEグループのデータによると、市場は利下げの確率を91%と織り込んでいる。ただ、企業向け貸し出しが堅調を保っている兆しがあるため、利下げの経済的必要性は弱まるかもしれない、とファンドマネジャーやアナリストは話している。
<活発なIPO>
ルネッサンス・キャピタルのプリンシパル、キャスリーン・スミス氏は、年末にかけてIPO計画が目白押しとなっている理由として、株式相場の変動が今後高まるとの見通しに加え、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)会社が流動性を求めていることを挙げた。
ルネッサンス・キャピタルのIPO銘柄を投資対象とする上場投資信託(ETF) (P:IPO)は年初来で約30%上昇。植物由来の代替肉を製造・販売するビヨンド・ミート (O:BYND)やビデオ会議会社ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ (O:ZM)などの銘柄が同ETFの価格を押し上げた。
フェデレーテッド・カウフマンのポートフォリオマネジャー、ジョーダン・スチュアート氏は、大統領選前後に相場が不安定になった場合、来年上場するヘルスケア企業の株価を圧迫する可能性があるため、一部の企業は上場を年内に前倒ししたと話した。大統領選で民主党候補が勝利した場合に最も影響を受けるのがヘルスケア株とみられている。