[ニューヨーク/チューリヒ/東京 29日 ロイター] - 元ヘッジファンドマネジャー、ビル・フアン氏が設立したファミリーオフィス、アーケゴス・キャピタル・マネジメントの問題を巡り、市場では、問題の全容をまだ把握できていないのではないかとの不安がくすぶっている。
規制の緩いファミリーオフィスであるアーケゴスは、不透明で複雑なデリバティブ取引と高いレバレッジを活用。市場では潜在的なシステミックリスクに対する懸念が浮上している。
米、英、スイス、日本の規制当局は状況を注視していると表明した。
関係筋によると、アーケゴスは「トータル・リターン・スワップ」と呼ばれるデリバティブ取引を行っていた。これは原資産の値動きから得られる収入を原資産を保有せずに受け取れる契約。同社は現金で直接、原資産を購入するのではなく、原資産に対する担保を差し入れていた。
同社のポジションは非常にレバレッジが高かった。関係筋によると、同社の資産は約100億ドルだったが、500億ドル以上のポジションを保有していたという。
グレート・ヒル・キャピタルLLC(ニューヨーク)のトマス・ヘイズ会長によると、フアン氏は「一極集中型の高いレバレッジを効かせた」取引で知られていた。
原資産の株式は、アーケゴスの取引先であるプライムブローカーが保有。プライムブローカーはアーケゴスに資金を融資するとともに、同社の取引の構築・処理を行っていた。
こうしたプライムブローカーには、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、ドイツ銀行、クレディ・スイス、野村が含まれていた。
ポジションが解消されたことを受けて、金融機関はブロック取引を通じて大量の株式を売却した。メディア大手のバイアコムCBSとディスカバリーの株価は、先週末に約27%急落。米上場の中国のインターネット企業バイドゥ(百度)、テンセント・ミュージックの株価も先週、それぞれ一時33.5%、48.5%急落した。
アーケゴスはもともと、フアン氏が2001年から2012年まで運用していた「タイガー・アジア」と呼ばれるヘッジファンドだった。同氏はその後、社名をアーケゴス・キャピタルに変更し、事業形態も富裕層の資産運用を担うファミリーオフィスとした。
複数のヘッジファンドの運用担当者は、フアン氏について「自信家」だったと指摘。なぜあれほど巨額の資金をバイアコムCBSとディスカバリーに投資したのか分からないと話している。関係筋によると、両社は高成長株とはみなされておらず、新型コロナウイルスの流行で株価が値上がりした他のメディア株とは対照的な存在だった。
フアン氏と同氏が経営していた企業は2012年、インサイダー取引疑惑で証券取引委員会(SEC)に4400万ドルの和解金を支払っている。
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