Joe Cash
[北京 24日 ロイター] - 中国の李強首相は先週の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、「中国市場への投資はリスクではなくチャンス」という前向きなメッセージを打ち出して金融エリートの共感を得ようと試みた。
その試みは完全な失敗に終わった。
ダボス講演の翌17日、中国株式市場では売りが加速。同日発表の国内総生産(GDP)統計で、李氏が講演で述べた通り、2023年の経済成長率が5.2%と、政府目標の5%前後を上回ったことが確認されたが、材料にならなかった。
ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアヘレロ氏は、経済指標よりも李氏の発言がニュースだったと指摘。「かなりの失望と困惑を招いた。自信が感じられなかった」とし、「誰もが予想していた数字を単に示すなんて意味不明だ」と述べた。
市場はむしろ、深まる不動産不況や地方債務問題の解決に向けた道筋や、消費低迷と高水準の投資による不均衡への対応が示されることを期待していた。
前向きな当局見解に反し、神経質な投資家や節約志向の国民は景気に懸念を強めており、双方の乖離が広がっている。
当局がそのメッセージを広く浸透させられなければ指導部の意思決定に不確実性が生じ、市場や消費者の信頼感をさらに悪化させる危険性がある。
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授は、3期目の習近平政権における権力集中が根本原因としてあり、地位が低いほど政策を決めたり市民と対話することにためらいが生じると指摘。
3期目政権で全体的な情報の伝達が遅くなった結果、市場で懸念が浮上しても政策が発表されず、発表されても遅すぎる状況になっているとした。
上海と深センの証券取引所では、21年末から3兆ドルもの価値が消失している。
<繰り返される公約>
中国当局は昨年7月、景気回復に減速の兆しが出たことを受けて、景気支援を公約し、刺激策への期待が高まった。
同月の中国共産党中央政治局会議の声明からは、従来よく使われた「住宅は住むもので投機するものではない」との文言が削除され、不動産株の上昇を引き起こした。
当局はまた、地方政府の債務問題に一連の措置を確約し、家計需要を経済成長の主要なけん引役にする意向を示した。
ただ、それ以降、徐々に打ち出された政策は期待を下回ってきた。住宅ローン金利が引き下げられ、不動産購入の一部制限が撤廃されたが、投資家や住宅購入希望者は負債を抱えた開発業者が住宅建設を終える前に破綻すると懸念し、需要を押し上げるには至っていない。
高水準の地方政府債務にはいまだに包括的対策が打ち出されていない。また、経済資源をインフラ投資や製造業から、賃金下落や雇用市場の軟化に直面する家計に再分配する措置も講じられていない。
<楽観論浸透せず>
昨年終盤に開かれた5年に1度の中央金融工作会議と毎年恒例の中央経済工作会議は投資家から大きな注目を集めた。
経済工作会議では「政策調整強化」という曖昧な方針が示され、金融工作会議は金融業界に対して共産党の指導を強化する方針を示した。
クロックタワー・グループのチーフストラテジスト、マルコ・パピック氏は「危機の後には、銀行がアニマルスピリットを持ち、融資すべきだと感じる必要がある。つまり銀行を取り締まれば、景気回復を鈍化させてしまう」と語った。
中国国家安全省は12月に「中国経済は明るいと唱和する」必要があると言及。
フィデリティのエマージング債券ファンドマネジャー、ポール・グリア氏は毎日目を凝らせば、中国の政策や緩和措置など何らかのポジティブな材料があるが、市場の感度が「既に鈍ったようだ」と語った。