Francesco Canepa
[フランクフルト 22日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーの間では、年内に複数回の利下げを想定する声が支配的だ。米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和への転換が遅れ、中東情勢の緊迫化により原油が高止まっている中でも、そうした見方が堅持されている。
主要中銀による利下げの号砲を鳴らすのはFRBと見なされてきたが、米国の物価上昇率がなお高いため、FRB自体の利下げ時期は従来の予想よりも遅くなる情勢にある。
またECBのラガルド総裁は、政策金利を6月に引き下げる公算が大きいとなお強く示唆しつつも、その後の政策金利の経路には予断を持たないという慎重な姿勢を取っている。
しかしECBの他の理事会メンバーはほぼ全員が、年内の複数回利下げを見込んでいることをよりはっきりと発信している。ユーロ圏の物価上昇率が来年までにはECBが目標とする2%に向けて緩やかに鈍化していくとみられるからだ。
エストニア中銀のミュラー総裁は先週ロイターに「経済情勢がわれわれの想定範囲で推移する限り、6月以降にあと何回かの利下げがあるとみるのが合理的だ」と語った。
タカ派メンバーとして知られるオランダ中銀のクノット総裁でさえ、年内3回の利下げに「違和感はない」と話している。
リトアニア中銀のシムカス総裁も、年内3回以上利下げする可能性があると発言。ドイツ連銀のナーゲル総裁は今後の政策金利の経路を「慎重な滑空飛行」と表現した。
フランス中銀のビルロワドガロー総裁は、中東や米国における直近の動きは一般的にはより慎重な行動を要する理由となるが、ユーロ圏の情勢を根本的に変えるものではないとの考えを示した。
ユーロ圏の物価上昇率は、サービスを除く全ての項目で下振れが続いている。
ピクテ・ウエルス・マネジメントのマクロ経済調査責任者フレデリック・デュクロゼ氏は、6月に利下げを始めるためのあらゆる条件は整ってきており、その後四半期ごとに1回利下げになる。10月にも別に1回実施されるリスクもある」と述べた。
<ユーロ安>
それでも一部の投資家はECBの決意を疑い始め、短期金融市場は12月までに3回の利下げがある展開をもはや完全には織り込んでいない。
市場では、ほかにユーロ安を止める手段がないとすれば、ECBは最終的にFRBの政策運営に追随せざるを得なくなるとみられている。
モルガン・スタンレーのエコノミストチームはノートに「為替レートとインフレのチャンネルが欧州において従来われわれが想定していた、より積極的な(利下げ)経路に対する不安の原因をもたらしている」と記した。
ただECBの政策担当者は総じてユーロの値動きには懸念を持っていない。
クロアチア中銀のブイチッチ総裁は先週、「外国為替市場は今のところ大変落ち着いている」と述べた。
何よりもほぼ全ての理事会メンバーが強調するのは、ユーロ圏経済が米経済よりもずっと弱く、米国とは違う対応が必要という点だ。
ベルギー中銀のウンシュ総裁はロイターに「米国とユーロ圏の経済(の方向は)切り離された。FRBとECBの政策金利の差は目新しくはないし、拡大するかもしれない」と語った。
ビルロワドガロー氏は、現在4%のECBの中銀預金金利が2.5%超、あるいは2%であっても、金融政策は経済に対して引き締め的になり続けると見積もっている。ポルトガル中銀のセンテノ総裁はロイターに「中立金利が3%を超えると言う人を知らない」と述べ、中立金利にたどり着くまで緩やかに利下げを進められる余地があると示唆した。