■自民党「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に改称
自民党安全保障調査会(小野寺五典会長)は4月21日、相手の弾道ミサイル発射基地等を攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に改称することを含む「国家安全保障戦略」など3文書改訂への提言案を了承した。
このあと、岸田文雄首相に提出される模様だ。
同会は、「ミサイル技術の発展によって極超音速かつ変則軌道、さらに同時多発攻撃を仕掛けられた際、迎撃のみでは防衛しきれない恐れがある。
それを抑止するためには、専守防衛の考えを維持しながら『反撃能力』を持つべき」と訴えた。
また、反撃するのは相手国の基地のみならず発射を指示する司令部などが想定され、「指揮統制機能等も反撃対象に含む」とした。
小野寺会長は「多くの国民の皆さんが、日本の先制攻撃は望んでいない。
専守防衛の精神が浸透しているため、『敵基地攻撃能力』ではなく、この『反撃能力』という言葉が一番ストレートに表現していると考えた」と強調している。
■防衛費「増額」も
さらに、ウクライナ情勢を受け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)2%以上を目標にしていることを念頭に「日本もGDP2%を念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化するための予算水準を目指す」とし、防衛費増額の必要性を訴えた。
海外ではドイツのオラフ・ショルツ首相が、ロシアのウクライナ侵攻3日後の連邦議会で「今後、毎年、国内総生産の2%以上を防衛に投じる」と宣言し、軍備拡張に慎重な3党連立政権の支持を得て、防衛力増強に方針転換している。
■「スタンド・オフ・ミサイル」開発を検討
日本政府は、2022年度の国産長射程巡航ミサイル開発費に393億円の予算を盛り込んだ。
報道によると今回開発を検討しているのは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」をもとにした新たな長距離巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」だ。
射程が約1000km以上の同ミサイルは、敵艦艇など相手のミサイル射程圏外からの反撃を想定し、将来的には敵基地への攻撃も行う可能性があるという。
2021年から開発している地上発射型に加え、艦艇発射型および航空機発射型の開発にも着手し、さらなる抑止力の向上を図っていく構えだ。
(防衛省「我が国の防衛と予算 -防衛力強化加速パッケージ- 令和4年度予算」参照)
■台湾は「ミサイル量産開始」
産経新聞によると、台湾当局は最大射程1200kmの巡航ミサイル「雄昇」の量産を開始したという。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、中国の台湾侵攻への抑止力強化を図る狙いだ。
これを台湾本島から発射した場合、上海や浙江省など中国東部戦区にある基地のほとんどが射程に入ることとなる。
台湾はこれまで、米国から「ハープーン」対艦ミサイルなどを調達してきたが、今回は独自のミサイル開発を発表したのである。
台湾の軍関係者はその理由を、ウクライナのように外国からの武器供与へ依存している状況から脱するためだと説明している。
■「ブダペスト覚書」を信じた結果…
4月に読売新聞が行った世論調査によると、日本の防衛力強化に「賛成」は64%、「反対」は27%だった。
平成30年「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」抜粋(内閣府大臣官房政府広報室)では、防衛力増強:29.1%、だったのに対し、今回の読売新聞の世論調査は「賛成」が大幅に増えた格好だ。
これはロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、防衛力強化を求める声が強まった結果とみられる。
ウクライナは、1994年に核兵器の放棄を条件に安全を保障するというブダペスト覚書に署名した。
しかし、米ロ英仏による平和保障の紙約束を信じ、全核兵器をロシアに返納した結果、その軍事力は大幅に削減してしまったのはいうまでもない。
これは「非同盟、軽武装になれば攻める国はいない」という神話を信じた政策だった。
ウクライナのこの政策か、あるいはバイデン大統領の「米国軍事非介入宣言」がトリガーとなったかは定かでないが、「力の空白」がロシアに侵略を踏み切らせたのは間違いない。
■「戦力不保持」で日本を守ることはできない
ドイツ帝国初代宰相のビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は、歴史に学ぶ。
賢者は過去の他人の失敗から学び同じ失敗を繰りかえさない」と言っている。
一方で、日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して我が国の安全と生存を保持しようと決意した」と記されており、日本の戦力不保持や憲法9条、非核3原則、国連中心主義で日本を守るべきだと考えている国民がいるのも確かだ。
しかし、ウクライナの失敗を見た日本国民は、今再び自国の安全をどう守るかを考える必要があるだろう。
今回の自民党による「反撃能力」「GDP2%」提言を、中国、ロシア、北朝鮮などのミサイルや核兵器開発に対する抑止力構築への足がかりにしたい。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。
P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、スウェーデン国連PKO訓練センター訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。
米国海軍勲功章受賞。
2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。
2020年から現職。
写真:つのだよしお/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
自民党安全保障調査会(小野寺五典会長)は4月21日、相手の弾道ミサイル発射基地等を攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に改称することを含む「国家安全保障戦略」など3文書改訂への提言案を了承した。
このあと、岸田文雄首相に提出される模様だ。
同会は、「ミサイル技術の発展によって極超音速かつ変則軌道、さらに同時多発攻撃を仕掛けられた際、迎撃のみでは防衛しきれない恐れがある。
それを抑止するためには、専守防衛の考えを維持しながら『反撃能力』を持つべき」と訴えた。
また、反撃するのは相手国の基地のみならず発射を指示する司令部などが想定され、「指揮統制機能等も反撃対象に含む」とした。
小野寺会長は「多くの国民の皆さんが、日本の先制攻撃は望んでいない。
専守防衛の精神が浸透しているため、『敵基地攻撃能力』ではなく、この『反撃能力』という言葉が一番ストレートに表現していると考えた」と強調している。
■防衛費「増額」も
さらに、ウクライナ情勢を受け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)2%以上を目標にしていることを念頭に「日本もGDP2%を念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化するための予算水準を目指す」とし、防衛費増額の必要性を訴えた。
海外ではドイツのオラフ・ショルツ首相が、ロシアのウクライナ侵攻3日後の連邦議会で「今後、毎年、国内総生産の2%以上を防衛に投じる」と宣言し、軍備拡張に慎重な3党連立政権の支持を得て、防衛力増強に方針転換している。
■「スタンド・オフ・ミサイル」開発を検討
日本政府は、2022年度の国産長射程巡航ミサイル開発費に393億円の予算を盛り込んだ。
報道によると今回開発を検討しているのは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」をもとにした新たな長距離巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」だ。
射程が約1000km以上の同ミサイルは、敵艦艇など相手のミサイル射程圏外からの反撃を想定し、将来的には敵基地への攻撃も行う可能性があるという。
2021年から開発している地上発射型に加え、艦艇発射型および航空機発射型の開発にも着手し、さらなる抑止力の向上を図っていく構えだ。
(防衛省「我が国の防衛と予算 -防衛力強化加速パッケージ- 令和4年度予算」参照)
■台湾は「ミサイル量産開始」
産経新聞によると、台湾当局は最大射程1200kmの巡航ミサイル「雄昇」の量産を開始したという。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、中国の台湾侵攻への抑止力強化を図る狙いだ。
これを台湾本島から発射した場合、上海や浙江省など中国東部戦区にある基地のほとんどが射程に入ることとなる。
台湾はこれまで、米国から「ハープーン」対艦ミサイルなどを調達してきたが、今回は独自のミサイル開発を発表したのである。
台湾の軍関係者はその理由を、ウクライナのように外国からの武器供与へ依存している状況から脱するためだと説明している。
■「ブダペスト覚書」を信じた結果…
4月に読売新聞が行った世論調査によると、日本の防衛力強化に「賛成」は64%、「反対」は27%だった。
平成30年「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」抜粋(内閣府大臣官房政府広報室)では、防衛力増強:29.1%、だったのに対し、今回の読売新聞の世論調査は「賛成」が大幅に増えた格好だ。
これはロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、防衛力強化を求める声が強まった結果とみられる。
ウクライナは、1994年に核兵器の放棄を条件に安全を保障するというブダペスト覚書に署名した。
しかし、米ロ英仏による平和保障の紙約束を信じ、全核兵器をロシアに返納した結果、その軍事力は大幅に削減してしまったのはいうまでもない。
これは「非同盟、軽武装になれば攻める国はいない」という神話を信じた政策だった。
ウクライナのこの政策か、あるいはバイデン大統領の「米国軍事非介入宣言」がトリガーとなったかは定かでないが、「力の空白」がロシアに侵略を踏み切らせたのは間違いない。
■「戦力不保持」で日本を守ることはできない
ドイツ帝国初代宰相のビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は、歴史に学ぶ。
賢者は過去の他人の失敗から学び同じ失敗を繰りかえさない」と言っている。
一方で、日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して我が国の安全と生存を保持しようと決意した」と記されており、日本の戦力不保持や憲法9条、非核3原則、国連中心主義で日本を守るべきだと考えている国民がいるのも確かだ。
しかし、ウクライナの失敗を見た日本国民は、今再び自国の安全をどう守るかを考える必要があるだろう。
今回の自民党による「反撃能力」「GDP2%」提言を、中国、ロシア、北朝鮮などのミサイルや核兵器開発に対する抑止力構築への足がかりにしたい。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。
P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、スウェーデン国連PKO訓練センター訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。
米国海軍勲功章受賞。
2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。
2020年から現職。
写真:つのだよしお/アフロ
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする