[東京 25日 ロイター] - 日銀の高田創審議委員と田村直樹審議委員は25日、就任会見に臨み、急速な円安進行は実体経済に悪影響を及ぼすとの認識を示した。高田委員は、為替相場そのものへの対応は日銀のなすべきことではないものの、「為替の変動は経済全般や金融市場にも影響を及ぼす」として「包括的な意味から日銀が対応していくことはもちろんあるだろう」と述べた。
債券市場に精通する高田委員は、イールドカーブ・コントロール(YCC)について、マクロ経済への効果と金融市場で見られる副作用の両面を検討していくことが重要だと指摘した。
<為替の大幅な変動に警戒感>
高田委員は「為替の大きな変動は先行きに対する不確実性を高める」と指摘。為替相場を安定させていくことが必要で「そういうことに対応しながら、政策全般的な対応を取っていくことが必要になってくる」と話した。「短期的な動きに対応していくということよりは、これまでの量的質的緩和の効果によって経済全体の動きを高めていく、持続性のあるものにしていく形での対応が中心になるのではないか」とも述べた。
田村委員は「為替相場を注視し、経済・物価への影響に応じて金融政策を取っていくことに尽きる」とした。
<YCC、マクロ的な改善見られる>
YCCについて、高田委員は貸出金利や資本市場での調達コストの低下を通じて「緩和的な金融政策が実現できている」と述べた。企業の収益や労働市場の引き締まりといった「マクロ的な改善も見られている」とした。
ただ、長期の低金利持続で金融機関の利ザヤが縮小し、国債市場の機能度低下も課題になっていると話し「経済・物価へのプラス効果と金融市場への影響の両面を議論しながら考えていく。その中で適切なイールドカーブがどのような状況になっているのか考えていく」と述べた。
マイナス金利についても、金融機関の収益に影響がある半面で信用コストの低下や企業活動の前向きな動きという効果も見られ「バランスを持って両面のモニタリングをしていくことが必要になってくるのではないか」と語った。
6月には金利に上昇圧力が掛かり、日銀は国債買い入れを強化して10年金利を許容上限の0.25%で抑え込んだ。高田委員は0.25%という上限は昨年の政策点検を踏めて設定されたもので「持続性ある状況」と話した。
出口戦略については「今の時点でという状況にはないが、常に考えておくべき論点だ」とした。
田村委員は大規模な金融緩和の結果、日本経済は10年前と比べて「大きく改善した」と評価。「政策の効果が政策目的にかなうなら、副作用に関して別途対策が必要になる場合もあるがその政策は正当化される」と指摘した。
<物価目標達成、「気長に丹念に政策対応を」>
日銀は7月の金融政策決定会合で2022年度の物価上昇率見通しを目標の2%を超える2.3%に引き上げたが、黒田東彦総裁は持続的・安定的な物価目標の達成には至っていないと強調している。
高田委員は「物価や賃金が上がりにくいことを前提にした考え方や空気が社会全体に長く根付いてしまった」と指摘。その転換に予想以上に時間が掛かったとして「気長に丹念に、持続性を持った対応をしながら物価目標を実現していくのが正解ではないか」と語った。
田村委員は「持続的に賃金の上昇を伴う形で物価目標を達成できるような好循環が実現していくのか、もうすぐのところまで来ているのかもしれない」と述べたものの、メガバンクのリテール部門での経験から「日本の個人はリスク回避的な行動が欧米より強く、物価があまり上がらないことにつながっている」とも指摘した。
<経済、「予断許さない不確実性」>
高田委員、田村委員はともに、日本経済は回復基調にあるものの、新型コロナウイルスの感染動向、海外経済の減速、ウクライナ情勢といった経済の下振れ要因に注意が必要だと述べた。
高田委員は「日本経済は基調として改善の流れにある」ものの、コロナの不確実性や海外経済の減速懸念など「予断を許さない不確実性を抱えている」と述べた。
田村委員は一連のリスク要因が「どのくらいのインパクトで顕在化するのか次第で日本経済に与える影響は変わってくる。今の時点で下振れリスクのインパクトがどれくらいか予見できないのでしっかり見て行って果断に対応するしかない」と話した。
(和田崇彦 編集:青山敦子、橋本浩)