[東京 15日 ロイター] - 岡地証券の投資情報室長、森裕恭氏は、日経平均が約30年半ぶりに3万円を回復したことについて、日本株市場は以前よりも健全になったと指摘する。企業業績に従って株価が上昇しているだけで、バブル色は薄いとみる。一方、ゲーム関連株の乱高下が示すように、米国株市場の方が投機色が強いという。
森氏は、1984年に岡地証券に入社。以来、一貫して調査畑を歩んでいる。
──30年前と何が違うのか。
「日経平均株価は2000年4月の構成銘柄大量入れ替えで連続性が断たれたために、80年代、90年代のものとは異なる。今は別の山を登っているという印象がある。連続性を計ることができた大証250種修正株価平均も今は存在しない」
「当時参加していた市場関係者、投資家も少なくなり、ヤレヤレという実感は大きくないのではないか。若い関係者、投資家にとっては、ダウ3万ドル、イコール日経平均3万円という感覚で、出遅れ修正の1つとみているように思える」
──日経平均とダウが「3万」で並んでいる。
「ゲームストップ株(訂正)の件をみる限り、米国株こそバブルの色彩を強めてきた様子だ。バブルの最大の特徴は、実態の裏付けが乏しいものが買われる、あるいは実態から極端に乖離(かいり)して買い進まれることだ。日本では80年代の土地持ち企業、ITバブルの情報通信株、米国でもかつてはエンロンのケースがあった」
「ところが、現在の日本株はそうした事象が起きていない。というよりも、バブル当時の経験が活かされているためか、コンプライアンスが厳しくバブルが起きにくくなっている。グロース株物色も収益実態に沿って、実態から大きく乖離することなく買われており、相場の姿として健全だ。かつてのような、本質的な意味でのバブル相場は起きないとみている」
──個人投資家は当時と変化はあるのか。
「日本のバブル期の信用買い残高は8兆円だったが、現在は2兆円にすぎない。仮需のウエートが格段に違う。信用取引の担保に差し出した銘柄と同じものを買う『二階建て』と言われるギャンブルの要素が強い取引が姿を消しているなど、健全になった印象だ。投機が減り、投資の比重が高まったように思える」
「特殊株主や投機家が暗躍し、今でいう風説の流布で株価が動くことはない。かつての日本はインサイダー天国だったが、現在の株価は収益に沿っている。ベテランの市場関係者や投資家にとって面白味がなくなったかもしれないが、金融リテラシーの向上、情報の公平性などから今後も健全な相場が形成されそうだ」
「ゲームストップ株の動きをみると、街の投資顧問から個人投資家がグレーな情報を取って躍ったバブル期の日本を見た気がした。この点については、米国の方が30年遅れているのではないか」
──日本株の見通しはどうか。
「現在の日本株は海底火山と例えることができる。コロナ禍で本質が見えなくなったが、これを除けば、日本株は長期的に見てデフレ脱却を買う相場だったことを忘れてはならない。今は日本経済が水面下にある中での株価上昇だ」
「政府がデフレ脱却宣言を行っていない上に、企業をみると内部留保が厚く、無借金が多い。PBR(株価純資産倍率)1倍割れの銘柄が目立ち、何よりも業績が好調。これらを踏まえれば、日経平均3万円は単なる通過点だろう。デフレ脱却が明確になり、日本経済が水面に浮上して初めて、金融引き締めなどリスクが語られるようになる」
──証券会社の店頭風景は変わった。
「株価ボードに投資家が群がり、大口個人客がキャッシュを持ち込む、有力な外務員が大量の注文を取るということがなくなった。ネット取引に流れていることが実感できる。伊勢町もかなりさびれた」
*本文5段落目の「ゲームストック株」を「ゲームストップ株」に訂正します。
(聞き手:水野文也)