ヤマシタヘルスケアホールディングス<9265>(東証スタンダード)は、九州を地盤とする医療機器専門商社を中心にヘルスケア領域でのグループ力向上を推進している。さらにサステナブルな成長の実現に向けて、2030年度を目標年度とする長期ビジョン「マルティプライビジョン2030」を策定している。23年5月期第1四半期は一般消耗品分野や低侵襲治療分野が伸長して増収・大幅増益だった。通期予想は据え置いて、コロナ対策補助金による一時的な対策需要が見込めないため減収減益予想としている。ただし第1四半期が大幅増益で進捗率も高水準だったことを勘案すれば、通期会社予想は上振れの可能性が高いだろう。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。株価は年初来安値を更新する軟調展開だったが、第1四半期業績を好感して急反発している。基調転換して出直りを期待したい。
■九州を地盤とする医療機器専門商社
九州を地盤とする医療機器専門商社(山下医科器械)を中心に、ヘルスケア領域でのグループとしての収益力向上を推進している。
事業子会社の山下医科器械は九州を地盤とする医療機器専門商社で、医療機器販売・メンテナンス、医療材料・消耗品販売、IT医療構築・医療設備工事、および医療モールを展開している。イーピーメディックは整形外科領域の体内埋没材料(インプラント)の企画・製造委託・輸入・販売、トムスは人工腎臓関連分野に強みを持ち透析装置・関連消耗品を中心とする医療機器販売およびメンテナンス、アシスト・メディコは医療機関の経営支援や介護施設を含む病床転換・M&A・事業承継などのコンサルティング、イーディライト(21年11月持に分法適用関連会社から異動)は医療機関の予約サイト制作取次などのソリューションサービス、エムディーエックス(22年2月設立)はDX新技術を活用した医療・介護施設・在宅向け新製品・サービスの開発を展開している。
22年5月期セグメント別売上高(セグメント間取引調整前)は医療機器販売業が547億95百万円(一般機器分野が84億41百万円、一般消耗品分野が231億81百万円、低侵襲治療分野が125億63百万円、専門分野が95億61百万円、情報・サービス分野が12億12百万円)で、医療機器製造・販売業が2億87百万円、医療モール事業が68百万円だった。セグメント利益(全社費用等調整前営業利益)は医療機器販売業が19億74百万円で、医療機器製造・販売業が20百万円、医療モール事業が▲46百万円、調整額が▲10億17百万円だった。医療機関の設備投資関連のため、第2四半期(9月~11月)および第4四半期(3月~5月)の構成比が高い特性がある。
■ヘルスケア領域でのグループ力向上を推進
中期経営計画(22年5月期~24年5月期)では、基本方針を「持続成長可能な体制構築を目指し、継続的な収益拡大に向け、ヘルスケア領域でのグループ力の向上を図る」として、目標値には最終年度24年5月期売上高520億円(収益認識に関する企業会計基準第29号適用換算前ベースでは675億円)、営業利益6億20百万円、経常利益6億80百万円を掲げている。
重点施策には、グループの一体化と戦略機能の強化、重点事業領域の拡充、グループ経営管理機能の強化、ダイバーシティ環境の実現、ESG経営への取り組み、戦略的人材マネジメントの確立を掲げている。
医療機器販売業では、電子カルテなどの医療情報システム構築支援、合弁事業の医科向け会員ネットワーク「EPARK」の普及拡大、SPD(Supply Processing&Distribution)事業の推進・収益性向上を推進している。医療機器製造・販売業では、台湾の医療機器メーカーと協力して手術器械の単回使用化に取り組んでいる。
また新規商材による市場開拓として、19年7月にはアイム(福岡県福岡市)と資本業務提携し、医療機関・介護施設向けに自然落下制御式輸液装置「FLOWSIGN 03W」のレンタル事業を開始している。20年1月にはNTT東日本と協業して医療機関向けICTサービスを開始している。さらにソルブ(福岡県春日市)の注射調剤・監査支援システムの取り扱いも開始している。
■長期ビジョン「マルティプライビジョン2030」
ESG経営・SDGsへの取り組みでは、21年6月に独立行政法人国際協力機構(JICA)が発行するソーシャルボンド(社会貢献債)への投資を実施した。21年8月にはESG基本方針を策定し、地域のヘルスケアに貢献する企業として、医療機器・関連サービスの安定的な供給を通じてSDGsの目標でもある持続可能でより良い社会を目指し、社会課題の解決に貢献できるように努めるとしている。22年3月には山下医科器械が経済産業省の健康経営優良法人認定制度において健康経営優良法人2022(大規模法人部門)の認定を受けた。
さらに22年7月にはサステナブルな成長の実現に向けて、2030年度を目標年度とする長期ビジョン「マルティプライビジョン2030」を策定した。既存の中核事業との連携を図りながら新たな事業ポートフォリオを構築し、企業価値の持続的成長および価値創出を目指すとしている。
22年9月には、乳がん検査デバイスとなるマンモエコーシステムなど超音波を用いた医療用機器の開発・販売を行うマイクロソニック(東京都国分市)に出資した。ESG活動の一環として、超音波を用いた社会性の高い製品の実現化に寄与することを目的に、マイクロソニックが持つ知財や研究開発を支援する。
■23年5月期1Qは大幅増益、通期減益予想だが上振れの可能性
23年5月期の連結業績予想は売上高が22年5月期比3.7%減の531億17百万円、営業利益が43.6%減の5億25百万円、経常利益が43.5%減の5億66百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が43.2%減の3億95百万円としている。配当予想は22年5月期比36円減配の46円(期末一括)としている。
第1四半期は、売上高が前年同期比4.5%増の134億71百万円、営業利益が28.5%増の2億59百万円、経常利益が24.3%増の2億74百万円、親会社株主帰属四半期純利益が14.5%増の1億65百万円だった。
診療報酬改定に伴う医療材料償還価格引き下げ、コロナ禍に伴う営業活動への制約などのマイナス要因があったが、コロナ対策補助金による医療機関の設備投資が継続したことに加えて、半導体不足の影響で前期末に発生していた納期遅延製品の入荷販売が進んだことも寄与して主力製品が伸長した。増収効果で大幅増益だった。
医療機器販売業は、売上高が4.8%増の134億46百万円で、セグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が20.6%増の4億87百万円だった。売上高の内訳は、一般機器分野が6.7%減の14億35百万円、一般消耗品分野が1.9%増の58億99百万円、低侵襲治療分野が12.8%増の34億11百万円、専門分野が11.1%増の24億28百万円、情報・サービス分野が8.5%減の2億70百万円だった。
医療機器製造・販売業は売上高が1.3%減の71百万円で利益が3.1%減の5百万円、医療モール事業は売上高が0.1%増の16百万円で利益が87.4%減の0百万円だった。
通期の連結業績予想は据え置いている。コロナ関連以外の診療や手術症例等については堅調に推移するが、国が交付したコロナ対策補助予算等による一時的な対策需要(特需)が見込めないため減収減益予想としている。ただし保守的な印象が強い。通期予想に対する第1四半期の進捗率は売上高が25.4%、営業利益が49.3%、経常利益が48.4%、親会社株主帰属当期純利益が41.8%だった。第1四半期が大幅増益で進捗率も高水準だったことを勘案すれば、通期会社予想は上振れの可能性が高いだろう。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。
■株主優待制度は5月末の株主対象
株主優待制度は毎年5月31日現在の1単元(100株)以上保有株主を対象に、保有株式数および継続保有期間に応じてオリジナルクオカードを贈呈(詳細は会社HP参照)している。
■株価は急反発
株価は年初来安値を更新する軟調展開だったが、第1四半期業績を好感して急反発している。基調転換して出直りを期待したい。10月5日の終値は1625円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS154円92銭で算出)は約10倍、今期予想配当利回り(会社予想の46円で算出)は約2.8%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS3126円18銭で算出)は約0.5倍、そして時価総額は約42億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)