Tom Westbrook Ankur Banerjee
[シンガポール 14日 ロイター] - 13日投開票の台湾総統選では与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総裁が勝利したが、同時に実施された立法院(議会)選では民進党の議席が過半数を割り込んだ。
市場関係者の間では、民進党が少数与党に転落したことで経済対策の可決が難しくなるとの懸念が浮上する一方、頼氏が対中強硬姿勢を強めにくくなり、中台関係の緊張が緩和するのではないかとの安心感も浮上している。
中国政府は、選挙に向けて頼氏を危険な分離主義者と非難していたが、選挙後は強硬姿勢を和らげ、選挙結果は民進党が台湾世論の主流を反映していないとことを示したと強調した。
フランスの投資銀行ナティクシス(香港)のアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「与党が過半数議席を失ったため、市場は与党が弱体化すると受け止める可能性がある。中国本土発のリスク要因が多数あり、内部でも多くのリスクを抱えると判断するのではないか」と指摘。
その上で、頼氏の勝利演説が「バランスの取れた」内容だったことや立法院の審議停滞が、中国側の反応を抑制する要因になる可能性があるとし「中国が何もしなければ、市場関係者は大ごとではないと判断し、前向きな姿勢を維持する可能性がある」と述べた。
今週の市場では、台湾株や台湾ドルに条件反射的な売りが出る可能性はあるが、新政権が発足するまで市場参加者は静観するとの見方が多い。立法院は2月1日に開会、頼氏は5月20日に就任する。
BNYメロン・インベストメント・マネジメントのアジア・マクロ投資戦略担当責任者、アニンダ・ミトラ氏は、今後数日は台湾、中国、米国の政治家が激しい応酬を繰り広げ、政治的な発言が過熱するなど一時的に混乱が生じると予想。
みずほ銀行(シンガポール)のチーフエコノミスト(日本を除くアジア)、ビシュヌ・バラタン氏は「マクロ的、地政学的な面では、グローバルな観点から大きな波紋が広がるとは思わない」とした上で、民進党が過半数議席を失ったことは大きな問題で「膠着状態に陥る可能性が高まったことで、台湾ドルが少し売られるかもしれない」と述べた。
<不確定要素>
海外投資家の間では、中国政府の反応が依然として不確定要素だとの見方が多い。
中国政府は13日、大半の有権者が頼氏に反対票を投じたと指摘。頼氏は中国との関係は現状を維持するとしながらも「中国からの脅威や脅しから台湾を守る決意だ」と述べた。
中国が台湾に侵攻した場合、米国は台湾を支援するとみられ、海外市場の大きなリスク要因となる。
台湾は世界の半導体の60%を生産。台湾に経済制裁が課された場合、世界のテクノロジー・人工知能(AI)部門が混乱する恐れがある。
ミトラ氏は「今後は、台湾の次期政権の戦略的政策と内部の結束力を注視する必要がある」とし「対中関係と対米関係のバランスを取ろうとするのか、どちらか一方と距離を置くのか。この問題に明確な答えを出すのは時期尚早だ」と述べた。