[東京 25日 ロイター] - 日本製鉄は鉄鋼生産に不可欠な原料炭の安定確保のため、炭鉱の権益取得を検討する。現在、約2割にあたる自社権益からの調達を増やす考えだ。森高弘副社長がロイターとのインタビューで明らかにした。
森副社長は脱炭素の流れのなかで石炭の上流投資へのハードルは相当上がっているとしたものの、「今の2割で止めておく必要はない」とし、「優良かつ経済性のある原料権益であれば取得し、自社鉱山の比率を上げていく」と述べた。
鉄鋼の主原料である原料炭の価格は、ロシアによるウクライナ侵攻直後の3月につけたピークから半値に下がった。それでも、2年前と比べると、約3倍の水準で推移している。
日本製鉄は2050年のカーボンニュートラルを掲げ、製鉄の過程で出る二酸化炭素を減らすため、高炉水素還元に取り組んでいるが、そこでも原料炭は一部必要となる。そのため、脱炭素を目指す上でも原料炭の確保は重要と位置付けている。
森副社長は、鉄鉱石の権益取得についても検討の俎上(そじょう)に上がっているが、より大きな必要性がある原料炭を優先したいと述べた。同社が保有する火力発電所の燃料となる一般炭の権益取得については、脱炭素の方針にそぐわず、株主への説明が困難として、考えていないという。
<さらなるコスト削減進める>
日本製鉄は20年3月期に4315億円の最終赤字を計上。国内に15基あった高炉を25年3月末までに10基に減らすなどの構造改革を進めている。同時に値上げを進め損益分岐点を引き下げてきたが、森副社長は収益を維持・拡大するために「まず1番目にやらないといけないのは変動費の改善」と述べた。
今年の2月に550億円で買収したタイの電炉2社については、高炉以上に変動費の比率が高いため鉄スクラップの調達を含めて日鉄の持つノウハウを投入しマージンコントロールを徹底する。汎用品を主力とするタイの電炉のような場合、生産調整を柔軟に行うことでも環境の変化に対応する。
世界の粗鋼生産は今年8月まで13カ月連続で前年同月を下回っている。同社単独の粗鋼生産も22年度は3400万トンの見通しで、昨年度から468万トン減少する。
中国のゼロコロナ政策や新興国の通貨安などに加え、各国の金融引き締めによる景気後退観測など、「世界経済の回復には相当時間がかかる」と森副社長は懸念を示した。国内では、供給網の正常化による自動車生産の回復の力強さにも欠けるという。
一方で、利益貢献に期待ができる分野として、天然ガス採掘に使われるシームレス(継ぎ目のない)鋼管などのエネルギー関連をあげた。建築向けの高耐食めっき鋼板など景気の影響を受けづらいとされる高付加価値品も伸ばし、利幅の維持も併せて来期(24年3月期)も最終増益を目指すという。
*インタビューは22日に実施しました。