■中期経営計画と成長戦略
(3)英国MTrecの買収について
トラスト・テック (T:2154)は2016年8月に、英国の人材派遣会社であるMTrecを買収することを発表した。
弊社では、今回の買収案件は高い可能性を秘めた魅力的な案件であると評価している。
そのように考える理由は、MTrecが前述の「地域」と「領域」の2つの軸による成長戦略に沿った存在であることと、MTrec買収のスキームが財務リスクや経営リスクを極力抑えるように工夫されていることの2つだ。
a) MTrecの概要
MTrecは2006年、Robin ArmstrongとDavid Musgrave両氏によって設立された人材派遣企業だ。
イングランド北東部のNewcastle Upon Tyneに本拠を置き、MTrec本体では製造スタッフや技術者の派遣業及び人材紹介業を手掛けるほか、子会社のMTrec Careにおいては看護師やヘルパー等のケア人材サービスを行っている。
2016年3月期は売上高44.9百万ポンド、税引前利益2.3百万ポンドを計上している。
MTrecの取引先は、本社を置くイングランド北東部にある各種メーカーだ。
同地域には自動車関連メーカー等の製造業が集積しており、英国日産自動車製造会社の工場(サンダーランド)や日立レールヨーロッパ社の鉄道車両工場(ニュートン・エイクリフ)などの日系企業も多数進出している。
そうした市場環境もあり、同社は自動車関連企業や家電企業、機械企業などを主要顧客として順調に業績を拡大させている。
b) MTrecの買収スキーム
今回の買収案件で注目されるのは、その買収スキームだ。
ポイントは2つあって、1つは創業者の1人であるDavid Musgrave氏が15%の持分を継続保有し、現経営陣とともに今後の成長の一翼を担うということだ。
もう1つはアーンアウト方式の採用による投資リスクの軽減だ。
アーンアウトとは、取得価額の一部について、将来の業績成長の実現まで、支払の一部を繰り延べる方式をいう。
米国などでは広く利用されているが、日本では、認知度も利用頻度も、まだ低い買収方式だ。
今回のケースでは、MTrecの2017年3月期と2018年3月期の2期間の業績をアーンアウト条項の評価指標としている。
条件が達成された場合の支払額は2,309百万円(17,104千ポンド/1ポンド=135円で換算)とされているが初回支払額は1,440百万円だけだ。
差額の869百万円については、上述の2期間の業績達成度に応じて0百万円~869百万円の間で決定され、2年後の2018年5月に一括で支払われる予定となっている。
なお、2018年3月期の業績目標値については公表されていない。
弊社では、同社が中期経営計画で掲げる売上高の年率20%成長、営業利益率10%という目標に沿った線で設定されているのではないかと推測している
弊社では、今回のMTrecの買収は様々な点で非常に優れたディール(取引)だったと評価している。
一部は前述した内容とも重なるが、第1に、英国という人材派遣市場が成熟した国の企業である点だ。
英国の人材派遣市場は世界市場の12%を占め、13%を占める日本市場と肩を並べている。
両国の人口の差を考えれば、英国の派遣市場の成熟度は日本をしのいでいると言える。
本格的海外展開の第1歩として、派遣市場成熟国に拠点を確保できた意義は大きいと考えている。
2つ目は創業者が株主として残った点だ。
過去のM&Aでは100%の持分を取得することを基本としてきたが、今回は同社の意向もあって創業者の1人であるMusgrave氏が株主として残った模様だ。
株主として同社と同じ利害関係を有する英国人(しかも創業者)を確保することは、経営リスク軽減に有効だと弊社では考えている。
3つ目はアーンアウト方式の採用だ。
一般にM&Aでは買収価格が折り合うかどうか、すなわち、オールオアナッシング的に判断が下されることが多い。
これはどちらの決断を下すにしてもリスクが大きい。
それに対してアーンアウト方式は買収リスクを減らす有効な手法として欧米では広く活用されている。
日本企業の活用例はあまり認知されていないが、採用の実例は決して多くはないとみられる。
同社はアーンアウト方式の採用で、MTrecの成長スピードが同社の期待に沿う・沿わないにかかわらず投資資金の回収期間は同じとしている。
今回の買収については、他にも様々な意義を見いだせるが、まずはMTrecの業績成長の推移を、期待を持って見守りたいと考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
(3)英国MTrecの買収について
トラスト・テック (T:2154)は2016年8月に、英国の人材派遣会社であるMTrecを買収することを発表した。
弊社では、今回の買収案件は高い可能性を秘めた魅力的な案件であると評価している。
そのように考える理由は、MTrecが前述の「地域」と「領域」の2つの軸による成長戦略に沿った存在であることと、MTrec買収のスキームが財務リスクや経営リスクを極力抑えるように工夫されていることの2つだ。
a) MTrecの概要
MTrecは2006年、Robin ArmstrongとDavid Musgrave両氏によって設立された人材派遣企業だ。
イングランド北東部のNewcastle Upon Tyneに本拠を置き、MTrec本体では製造スタッフや技術者の派遣業及び人材紹介業を手掛けるほか、子会社のMTrec Careにおいては看護師やヘルパー等のケア人材サービスを行っている。
2016年3月期は売上高44.9百万ポンド、税引前利益2.3百万ポンドを計上している。
MTrecの取引先は、本社を置くイングランド北東部にある各種メーカーだ。
同地域には自動車関連メーカー等の製造業が集積しており、英国日産自動車製造会社の工場(サンダーランド)や日立レールヨーロッパ社の鉄道車両工場(ニュートン・エイクリフ)などの日系企業も多数進出している。
そうした市場環境もあり、同社は自動車関連企業や家電企業、機械企業などを主要顧客として順調に業績を拡大させている。
b) MTrecの買収スキーム
今回の買収案件で注目されるのは、その買収スキームだ。
ポイントは2つあって、1つは創業者の1人であるDavid Musgrave氏が15%の持分を継続保有し、現経営陣とともに今後の成長の一翼を担うということだ。
もう1つはアーンアウト方式の採用による投資リスクの軽減だ。
アーンアウトとは、取得価額の一部について、将来の業績成長の実現まで、支払の一部を繰り延べる方式をいう。
米国などでは広く利用されているが、日本では、認知度も利用頻度も、まだ低い買収方式だ。
今回のケースでは、MTrecの2017年3月期と2018年3月期の2期間の業績をアーンアウト条項の評価指標としている。
条件が達成された場合の支払額は2,309百万円(17,104千ポンド/1ポンド=135円で換算)とされているが初回支払額は1,440百万円だけだ。
差額の869百万円については、上述の2期間の業績達成度に応じて0百万円~869百万円の間で決定され、2年後の2018年5月に一括で支払われる予定となっている。
なお、2018年3月期の業績目標値については公表されていない。
弊社では、同社が中期経営計画で掲げる売上高の年率20%成長、営業利益率10%という目標に沿った線で設定されているのではないかと推測している
弊社では、今回のMTrecの買収は様々な点で非常に優れたディール(取引)だったと評価している。
一部は前述した内容とも重なるが、第1に、英国という人材派遣市場が成熟した国の企業である点だ。
英国の人材派遣市場は世界市場の12%を占め、13%を占める日本市場と肩を並べている。
両国の人口の差を考えれば、英国の派遣市場の成熟度は日本をしのいでいると言える。
本格的海外展開の第1歩として、派遣市場成熟国に拠点を確保できた意義は大きいと考えている。
2つ目は創業者が株主として残った点だ。
過去のM&Aでは100%の持分を取得することを基本としてきたが、今回は同社の意向もあって創業者の1人であるMusgrave氏が株主として残った模様だ。
株主として同社と同じ利害関係を有する英国人(しかも創業者)を確保することは、経営リスク軽減に有効だと弊社では考えている。
3つ目はアーンアウト方式の採用だ。
一般にM&Aでは買収価格が折り合うかどうか、すなわち、オールオアナッシング的に判断が下されることが多い。
これはどちらの決断を下すにしてもリスクが大きい。
それに対してアーンアウト方式は買収リスクを減らす有効な手法として欧米では広く活用されている。
日本企業の活用例はあまり認知されていないが、採用の実例は決して多くはないとみられる。
同社はアーンアウト方式の採用で、MTrecの成長スピードが同社の期待に沿う・沿わないにかかわらず投資資金の回収期間は同じとしている。
今回の買収については、他にも様々な意義を見いだせるが、まずはMTrecの業績成長の推移を、期待を持って見守りたいと考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)