[ドゥアラ(カメルーン) 2日 トムソン・ロイター財団] - カメルーンの都市ドゥアラでここ数年、タクシーの高い運賃や不正を働く運転手、車内のセクハラで困っていたリリアン・ディボ・エヨングさん(29)は、安全で安い運賃を約束する配車アプリ「ヤンゴ」をダウンロードすることにした。
ロシアのハイテク大手ヤンデックス傘下のヤンゴは、カメルーンで近年サービスを開始した配車アプリの1つ。同国ではこれまで長い間、女性がタクシーやバス車内でのセクハラや暴行、危険を感じる行為に遭ったなどと訴えてきた。
エヨングさんはモデルとして働く一方、身体に障害のある女性の権利を擁護するリリアン・ディボ財団の最高責任者を務めている。「ヤンゴを使えば、公共交通機関よりずっと安全。私のように身体に障害があり車椅子を使う者がドゥアラ市内を非常に楽に、ストレスも少なく移動できる」と話す。「ヤンゴで空車のタクシーが見つからなければ、外出予定をキャンセルすることさえある」と言う。
アフリカではウーバー、ヤンゴ、フランス系のHeetch、アフリカ系のゴゼムといったアプリが主導する形で、配車業界が急拡大している。これらのアプリは緊急ボタンやGPSといった安全な機能の装備、運転手の訓練、女性運転手の採用といった取り組みを売り物にしている。
非営利団体セキュルートのコンサルタント、マーシャル・ミシミキム氏は、カメルーンの女性にとって配車アプリは、通勤や市場への買い物、子ども連れの移動が楽になるなど恩恵をもたらしていると指摘。「ヤウンデとドゥアラの住民は誰もが、タクシー車内で強盗の被害に遭うか、被害に遭った人を知っている」という。
こうしたアプリには悪質な運転手を追跡する機能が備わっており、顧客の評価制度によって、運転手は常に品行方正な勤務態度が求められるという。
<デジタルの障壁>
国連の統計によると、カメルーンでは女性の3分の1強が人生の中で何らかの身体的暴力や性的暴力に直面している。
女性への暴力に関する国の統計はないが、人権団体のセクシャル・バイオレンス・リサーチ・イニシアティブによると近年、軍備拡大と経済面の不確実性の高まりを背景にこうした事件が増えている。
国際金融公社(IFC)の2018年の報告書によると、配車アプリにより「女性の移動しやすさの度合いと独立性が高まった」ため、これまでは行けなかった場所への移動や夜間の外出が可能になった。
だが、携帯電話とインターネットへのアクセスが女性にとって障壁となる可能性があり、貧困層や地方の住人は、配車アプリの利用から弾き出される恐れがあるという。
統計サイトのスタティスタによると、カメルーンではインターネットを利用できるのは、全人口の約37%にとどまっている。また、インターネットを利用できる女性は男性よりも少なく、男女間の格差も大きい。
<都市の優位性>
アフリカの新興企業が運営する配車アプリのゴゼムは、女性が「最も多い利用者層」(運営マネジャーのキングスレイ・タタウ氏)になっている。同社は西アフリカで広範に業務を展開し、食品と日用品の配送も手掛ける。
ヤンゴの事業開発責任者、アデニイ・アデバヨ氏によると、同社は女性運転手を積極的に採用している。アプリに表示される「安全性」のタブにより、利用者は移動経路を連絡先と共有できる。また、仮に運転手が交通規則に違反したり、不品行に振る舞ったりすれば、カスタマーサービスにすぐに連絡できる。
ヤンゴでパートタイム従業員として働く女性運転手、エブリン・ニャゴウアさん(26)は、この仕事で一定の収入を確保できる上、他の女性の役に立てると話す。「私の乗客は大半が女性。女性運転手のタクシーに乗車することで乗客は快適で安全だと感じるし、私も自分の仕事に自信が持てる」という。
だが、カメルーンでは配車アプリが都市部でしか利用できず、地方の女性は不利な立場に置かれている、と女性人権団体シスタースピーク237の創設者、コンフォート・ムサ氏は説明する。「都市部では選択肢が多く、より簡単で安全な移動のためアプリを利用できる」が、「農村部の女性にとっては道路や輸送網、サービスが存在さえしていない。女性は長い道のりを歩くしかない」という。
<国内で反発も>
カメルーンの配車アプリは他国と同様、地元の交通機関からの反発に直面している。地元交通機関は、配車アプリが不公平な競争をもたらしていると不満を訴えている。
政府は昨年、ヤンゴに通信当局からの免許取得、税務当局への登録、国内銀行での口座開設、事務所の開設を義務付けた。また、政府は先月、交通規制を順守していないとしてヤンゴに業務停止を命じた。
一方でヤンゴは、業務は停止されていないと主張。影響を受けたのは同社のプラットフォームを利用している特定のサービス提供業者のみだとしている。
ソーシャルメディアでは、政府決定の見直しを求める声が上がっている。
(Maikem Emmanuela記者)