[ロンドン 9日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱を巡る不透明感が一層増している。
エリザベス女王は9日、英国のEU離脱を10月末から延期する法案を裁可し、法律が成立した。同法は、EUとの離脱合意案が10月19日までに議会で承認されず、合意なき離脱も認められなかった場合、ジョンソン首相に対し3カ月の離脱延期をEUに求めることを義務付けるもの。
しかし、同法の成立後、ジョンソン首相は10月のEU首脳会議で離脱協定の合意を目指すが、離脱延期は求めないと強調。合意なき離脱を阻止しようとする議会の動きには屈しない姿勢を示した。
英下院は10日未明、EU離脱を巡る行き詰まり打開に向けてジョンソン首相が提出した解散総選挙の動議を否決。解散総選挙の承認には下院(650議席)の3分の2の434票の賛成が必要だが、賛成票は293票にとどまった。
首相は4日にも総選挙の動議を出して議会に否決されたばかり。[nL3N25V4AD] 10月17日のEU首脳会議前となる10月中旬への総選挙前倒しを目指していたが、再び議会に退けられた。
英野党・労働党のコービン党首は、同党は総選挙を切望しているが、10月末にEUとの合意がないまま離脱を強行する可能性が選択肢から排除されない限り、解散総選挙には賛成しないと表明していた。
ジョンソン首相は動議の否決後、議会で「政府は離脱協定案の交渉を推し進める。一方で、合意なき離脱にも備える」と発言。「10月17日に行われる重要なEU首脳会議に出席する。議会が私の手を縛るためにどんなに多くの策を考え出したとしても、国益にかなう合意にこぎつけるため努力する。政府はこれ以上EU離脱を延期しない」と語った。
その後、議会は10月14日までの閉会手続きに入った。
EU各国の首脳は英国から具体的な提案を受け取っていないと繰り返し述べている。
アイルランドのバラッカー首相は9日、ジョンソン首相の隣に立ち、記者団に対し、合意なき離脱回避への望みがあるならば、ジョンソン首相はアイルランド国境問題の解決に向けた具体的な提案を行う必要があると発言。国境問題の解決策 「バックストップ(安全策)」の代替案は「現実的かつ法的拘束力があり、機能するものでなければならない」とした上で、「そのような提案はまだ受け取っていない」と述べた。
バラッカー首相の遠慮のない発言は、合意なき離脱をちらつかせて昨年11月に合意した離脱協定案の再交渉をフランスとドイツに迫ろうとするジョンソン首相の賭けが通用しない可能性を示している。
9日成立した離脱延期法では、10月19日までに議会が合意なき離脱を認めた場合には、10月31日に合意なき離脱が可能だ。だが、現在の議会が方針を変えて、合意なき離脱に賛成する可能性は低い。
米投資会社ブラックロックは、合意なき離脱あるいは国民投票実施の現実味が増したとみている。
このほか、9日には下院のバーコウ議長が10月末に議長職を退任すると表明。EU離脱延期法の可決を助けたとして政府から批判されていた議長は退任の表明にあたり、議会をおとしめることのないよう政府に警告した。
また、下院は同日、合意なき離脱を巡る計画のほか議会閉会の決定を巡る政府当局者間のやり取りについて、政府に関連文書の公表を求めることを賛成多数で承認した。文書公表を求める人々は、議会閉会の判断には、EU離脱を巡る審議時間を削るという政治的動機があったと主張している。