[ロンドン 16日 ロイター] - サウジアラビアの中心的な石油施設に対する攻撃では、世界最大級の精製工場も被害を受け、原油価格が約4カ月ぶりの高値を付けた。
今回の事態が原油供給や生産余力に及ぼす影響について、Q&A形式で以下に説明していく。
Q:なぜ、サウジ施設への攻撃が、世界の原油供給に対して破壊的な要素になるのか。
A:サウジの原油生産量が半分になってしまっただけでなく、世界的な原油供給に大きな支障が生じた場合に利用できる生産余力が、ほぼ失われたからだ。
攻撃によってサウジの原油生産は、日量570万バレル減少した。これは世界の供給量の5%強に相当する。同時に緊急事態に対応可能だったサウジの200万バレルを超える生産余力が制約を受けた。
サウジはもう何年も前から、戦争や自然災害などがもたらす供給不足の際に、すぐに穴埋めできる大規模な追加生産能力を備えた唯一の主要生産国だった。
他のほとんどの産油国では、わざわざ高い費用をかけて油田を掘削し、関連インフラを整備した上で、稼働休止状態にしておく余裕がない。
国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、今回の攻撃前の段階で、石油輸出国機構(OPEC)の持つ供給余力は、日量321万バレルだった。このうちサウジが227万バレルを占め、残りは約94万バレルしかない。大半はクウェートとアラブ首長国連邦(UAE)の分であり、イラクとアンゴラにも若干の余力がある。これらの産油国はサウジの欠落分の一部を埋めようと増産するかもしれないが、十分な規模にはならないだろう。
Q:減産しているOPEC加盟国と非加盟産油国が、単に増産に転じれば良いのではないか。
A:確かにOPEC加盟国とロシアなどの非加盟産油国は、原油市場が供給過剰になっていることを理由に挙げ、価格下落を防ぐために協調減産を続けている。
これら産油国の目標は、原油供給を120万バレル減らすことだ。ところが、減産の大部分を担ってきたのはサウジであるため、直ちに協調減産の方針を転換できない。ロシアなどの非加盟産油国は現在、生産量が能力の限界に近づいているため、追加生産量はせいぜい10万─15万バレルだろう。
Q:イランはどうか。
A:イランには生産余力があるものの、トランプ政権が科した制裁によって、ほとんど市場に供給できない。4月以降、イランの原油輸出は200万バレル余りも減っている。
米政府は、今回のサウジ施設への攻撃の背後に、イランが存在すると主張。そのイランによって生じたとみられる供給不足について、イランが穴埋めするのを認めることになる制裁緩和に、米国は動きそうにない。
一方、イラン側は制裁を和らげてくれるならば、最大限の生産に乗り出すとしている。
Q:ベネズエラは、増産できないか。
A:米国の制裁対象には、ベネズエラの石油産業も含まれている。もっともベネズエラの原油生産は、もう何年にもわたって減少を続け、仮に制裁が緩和されても、国営石油会社PDVSAが十分に増産することはできないとみられている。
Q:米国のシェール業界は、増産可能ではないか。
米国はシェール業界からの急速な供給拡大が続いたため、世界最大の産油国になった。原油輸出国としての存在感も高まっており、6月の国際市場への出荷量はサウジを上回った。
シェール業者は価格上昇時に素早く増産することが可能で、数カ月単位で新たな生産態勢を整えられる。大半の伝統的な石油生産方式に比べ、格段に早く対応できる。
もし、サウジの生産停止が長期化し、原油価格が大幅に上がるようなら、シェール業者は増産するだろう。ただ、米国の港湾設備の稼働率が既に100%近くに達しているため、増産しても輸出量は制約を受ける。
Q:では、この先はどうなるのか。また、在庫の動向は。
A:供給停止期間が、どの程度長引くかに全てがかかっている。サウジ、米国、中国は、いずれも数億バレルの戦略石油備蓄を保有しており、需要に応じてそれを放出し、原油価格が跳ね上がるのを抑えることができる。トランプ米大統領は15日、必要なら米国の戦略石油備蓄を放出することを承認した。
IEAは、全加盟国に対し、純輸入量の90日分を備蓄するよう助言している。
ただ、備蓄が減少して需給ひっ迫の可能性が出てくると、市場の値動きは不安定化しそうだ。
JPモルガンの欧州・中東・アフリカ地域石油・ガス調査責任者のクリスチャン・マレク氏は「われわれは極めて供給過剰な状態にある」と述べるとともに、日量500万バレル分の生産停止によって、世界の原油供給量を過去40年間の平均な水準に戻すまでに5カ月かかると指摘した。一方、今回の攻撃で「市場には新しく、不可逆的なリスクプレミアムがもたらされた」とも付け加えた。
Q:新たな供給中断が起きた場合、どうなるか。
A:もはや生産余力がないので、今後の供給途絶は原油価格を押し上げる。ある程度の期間価格が上昇すれば、生産者は投資と増産に積極的になり、同時に消費は減退する。
OPEC加盟国のリビアは内戦の真っただ中で、原油生産を続けられるかどうか危ぶまれている。もし、リビアで新たに大規模な供給途絶が起きれば、ショックが増大し、生産余力の不在が浮き彫りになるだろう。
ナイジェリアの原油輸出も、これまで再三止まったことがある。
サウジ施設への攻撃前の時点でも、生産余力は落ち込んでいた。コンサルティング会社エナジー・アスペクツは、今年第2・四半期に200万バレルだったOPECの生産余力は、第4・四半期に100万バレルを割り込むと予想している。