[モスクワ/アンカラ/ワシントン 23日 ロイター] - 米軍が撤収するシリア北部でのロシアとトルコの協力が動き出す。ロシア憲兵隊は23日、クルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」の要衝の1つであるコバニに到着、YPG勢力退去の監視を始めた。ロシア・トルコ両国は、29日からトルコ国境10キロ以内の地帯で共同警備を開始する。ロシアは米国に代わって同地域での影響力を一気に拡大、8年に及ぶシリア内戦のパワーバランスはわずか2週間で大きく変化した。
トルコはクルド人勢力への攻撃は終了したと発表。これを受け、トランプ米大統領は23日、トルコがシリア北部での停戦を恒久化する方針を示したとし、同国に対する制裁を全て解除すると表明した。
<「安全地帯」を共同で監視>
トルコは先週、米国の働きかけを受け、シリア北部で展開する軍事作戦を5日間停止することで合意。トルコがシリア難民帰還に向けて同地域に設置を計画している「安全地帯」からYPGが退避する猶予を与えた。
その後、トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が22日に会談し、ロシア軍とシリア軍がYPGをトルコ国境から30キロシリア側に離れた地点まで退去させ、退去後の「安全地帯」をトルコとロシアが共同で警備することで合意した。
トランプ大統領は10月6日にシリア北部からの米軍部隊の撤収を表明した。その直後、隣国トルコの軍隊が同地に入り、過激派組織「イスラム国(IS)」掃討作戦で米国に協力してきたYPGを攻撃。さらにはロシア憲兵隊が同地に配備される展開となった。
ロシア憲兵隊に続き、ロシアが支持するシリアのアサド政権の国境警備隊もコバニ入りする。
YPG退去には6日かかるとみられており、来週29日からはロシアとトルコがトルコ国境から10キロ以内の地帯を共同で警備する。この地帯には長らく米軍が駐留していた。
ロシアとトルコの前日の合意について、クルド人勢力はまだ反応を示していない。また、クルド人勢力の退去を具体的にどのように進めるかについても明らかになっていない。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、クルド人勢力が退去しない場合、シリアの国境警備隊とロシア憲兵隊は退却する必要があるとし、「残ったクルド人勢力にはトルコ軍が対処する」と述べた。
IS掃討作戦で米国に協力してきたYPGを含む「シリア民主軍(SDF)」のアブディ司令官は23日、トランプ大統領はクルド人勢力に対する長期的な支援を維持すると約束していたと述べた。
インタファクス通信によると、アブディ司令官はロシアのショイグ国防相と電話で会談し、ロシア憲兵隊とシリア軍の行動を支持すると述べたという。
<トランプ氏「少数の米軍部隊残す」>
トランプ大統領は23日、ホワイトハウスで「トルコ政府が今朝、シリアでの軍事作戦を停止し、停戦を恒久化すると伝えてきた」と説明。同時に「同地域における恒久という言葉には疑問の余地があることも理解している」と述べた。
トルコがシリア北東部に侵攻しクルド人勢力に対する攻撃を始めたことを受け発動した対トルコ制裁については「われわれが満足できないことが起きない限り」解除するようムニューシン財務長官に命じたことを明らかにした。
大統領は23日のロシア側の動きについて言及しなかったが、油田のあるクルド人勢力支配地域には少数の米軍部隊を残すとし、「今後どうするか決める」と述べた。
大統領はまた、米国の中東政策の転換も示唆。「太古の宗派そして部族の戦いが続く中東地域で、何人の米国人が命を落とさなくてはならないのか。私は、米国に勝利をもたらす異なる路線を進むことにコミットする」と語った。
<トルコとロシアの関係、一層緊密に>
トルコとロシアの関係は一層緊密になっている。インタファクス通信は、ロシアは地対空ミサイルシステム「S400」のトルコへのさらなる納入が可能だとするロシア政府当局者の発言を伝えた。
一方、トルコのアカル国防相は23日、最新鋭ステルス戦闘機「F35」を巡る米国との問題は解消できるとの見方を示した。
トルコがロシアの地対空ミサイルシステム「S400」を購入し、納入を受けたことを受け、米国は「F35」の共同製造プログラムからトルコを除外した。
アカル国防相はロイターのインタビューに対し「(F35の)製造を継続することを望んでいる。現時点で問題はあるが、解決できると考えている」とし、「米国とトルコはF35の製造で協力しており、トルコは約15億ドルを投入したほか、国内で一部部品も製造している」と述べた。