FRBの利上げ発表によって、ドル高へと推移したことは当然のように思われるが、水曜日のドル高要因は予想外であった。多くの投資家はパウエルFRB議長のハト派発言を予想していたが、同氏が楽観的(米国経済に対して強気)なコメントを述べたことでドル高となったと考えられる。次に、米国10年債利回りが8ヶ月の最低水準まで下落したにもかかわらず、ドル高へと上昇したことも挙げられる。現在の市場は、2020年には利上げではなく、利下げを行う可能性も十分にあり得ると市場は織り込んでいるため、予想されている利上げ回数も減少している。こういった利上げスピードの減速やGDP、インフレ率の弱さから、本来ドル安へと下落するはずであったが、実際にはドル高へと上昇したのだ。これは、FRBの政策発表で米国経済停滞を危惧したハト派的な発言がみられなかったことが要因であると考えられる。
投資家は利上げの停止から、リスクアセスメントに対する不透明感まで、最悪なシナリオに備えていた。 FOMC声明や経済成長の低下、インフレの見通しへのサプライズはなく、これらは市場が望んでいたほど変化ではなかった。パウエルFRB議長は、政策金利に対して予め決められた道筋などはなく、経済指標をもとに判断していくことをはっきり述べていた。しかし、経済指標を重視する発言と同時に、米国株式市場の急落と金融市場の縮小によって本質的には「中央銀行の見通しを変えたことはない」と発言している。FRBは来年度も利上げを行うことを見込んでおり、大半のFOMCメンバーは米国経済は加速すると考えている。他国の中央銀行と比較すると、2019年初旬に利上げを行う中央銀行はかなり少なく、FRBくらいである。利上げによってドルは下支えされるだろう。しかし、国債からドルへの影響は免れられず、国債利回りが下落を続けた場合、ドルは下落するだろう。
結局のところ、FRBは楽観的な見方を継続し、警戒感を表していない。よって今後、経済指標が改善した場合、FRBはさらなる利上げを行う可能性があることが最大の懸念点だと考えられる。ドル安の回避には、EUR/USDが1.1450ドルを上回る水準まで回復し、USD/JPYが112円を下回る水準へ推移することが必要である。
12月FOMCによる、ドルへのインプリケーション
- 25ベーシスポイントの追加利上げ。今年度は計100ベーシスの利上げ (ドル高要因)
- ドットプロットにおける、2019年度利上げ見通しは3回から2回に減少 (ドル安要因)
- 経済見通しに対するリスクはおおむね均衡、金利の見通しは経済指標を重視とする発言(中立)
- FRBによる2019年GDP、インフレ率予想の下方修正。インフレのトレンドからFRBは金利を据え置く可能性あり (ドル安要因)
- 満場一致での利上げ決定 (ドル高要因)
- 「さらなる段階的な利上げ見通し」から「さらなる段階的な利上げを判断」への声明変更 (ドル安要因)
- 金融引き締め政策下であるが、政策が見通しに表れていないという発表 (ドル高要因)
- 多くのFOMCメンバーは2019年の経済成長を見込んでいるが、今後経済が低迷する可能性 (中立)
- 利上げペースや到達目標などの未確定要素 (ドル安要因)
- 中立レンジを下回る金利 (ドル安要因)
- 今後金融緩和政策は行われないが、中立スタンスとなる可能性 (ドル安要因)
次のトピックはイングランド銀行についてである。ポンドは、イングランド銀行(BOE)の年内最後の政策決定会合を前に安値圏での取引となっている。FRBとは異なり、政策金利の変更は行わないだろう。前回の政策決定会合において利上げの発表を行い、GBP/USDは1.30ドルまで急騰した。この会合のレポートによると、金融政策メンバーは「11月のインフレ見通しに沿って英国経済が成長し続けた場合、金融引き締め政策を予定された期間で行うだろう」と発言していた。加えて、イングランド銀行のカーニー総裁は、ブレグジット(英国EU離脱)によって投資意欲が高まる可能性はあるが、合意なき離脱(ノーディールブレグジット)の場合は大規模な供給ショックを引き起こし、インフレや金利が急騰する可能性があると述べている。ブレグジットの議会採決まで7週間であるが、英国は未だ何の進展もない。一方で、英経済指標は良くも悪くもない状況だ。労働市場の景況感は良く、賃金が上昇するも、製造業とサービス業景況感は減速したため、小売売上高は下落した。FTSE指数は11月の政策決定会合以降、4.5%の下落となっている。BOEの引き締め政策が市場の重しとなっているわけではないが、金融緩和を行うのかどうかという点は不透明である。BOE内部では緩和に賛成であるだろうが、公には引き続き引き締め政策を行うと発言するだろう。ブレグジットの不確実性は引き続き存在するだろうが、BOEは今後数週間のうちにブレグジットの動向は鮮明になることを期待して、来年度のガイダンス見直しを延期するかもしれない。