米国の消費者物価指数(CPI)は2月に悪化した可能性が高く、連邦準備制度理事会(FRB)が来週発表すると思われる利上げは、おそらく高止まりするインフレ率の抑制にはほとんど効果がないだろう。原材料供給が先細るとみる投機筋による購入を受けて、原油や金、その他のコモディティ価格は過去数年来の高値まで上昇している。
ロシアのウクライナ侵攻により、米国政府がロシア産原油の輸入禁止を検討している中、ブレント原油lは1バレル130ドル以上の2008年のピークまで急騰した。
金は、市場がまだ新しいコロナウイルスの大流行で手探り状態だった2020年夏に最後に記録した1オンス2000ドルの高値を再び更新し、今年いっぱい燻る先行き不透明感を恐れる投資家における安全な避難先として支持されるようになった。
今回のロシア・ウクライナ危機が今後も数カ月間に渡って長引くことで、コロナ禍によるストレスから改善し始めていたサプライ・チェーンが再び停滞するかもしれないという懸念から 銅、小麦、トウモロコシ、大豆、コーヒーでさえ価格は急騰した。
「非常に単純に考えて、もしあなたが世界中の人々が今必要としているものを扱う仕事をしているとしたら、あなたもこの問題の当事者である」と、オンライン取引プラットフォームOANDAのアジア太平洋地域アナリストのJeffrey Halley氏はいう。
物価高の最良の解決策はおそらくさらなる物価高だが、2022年の世界の成長予測は「大幅に下方修正する必要があるかもしれず、世界の中央銀行がどう動くか注目される」と同氏は述べた。
特に「最も苦しむことになる世界の貧しい国々」におけるスタグフレーションの波を強く懸念しているという。
また、「欧州とアジアは金融政策正常化の考えを止めるだろう。欧州が最前線にいるのだから、彼らを責めることはできない」と同氏はみている。
ゴールドマン・サックスのメモによると、20ドルの原油上昇ショックが続くと、ユーロ圏の実質経済成長率は0.6%、米国では0.3%低下する。原油価格は年が明けてからおよそ50ドル上昇している。
来週、パンデミック時代以降で初の利上げに臨むFRBは、パウエル議長や他の連邦公開市場委員会のハト派メンバーの意向に沿えば、わずか0.25%の引き上げに留まる。
先週、米国産原油の価格がまだ105ドルから115ドルの範囲にあったとき、パウエル議長は、インフレの算出から、高騰しているが一時的なものである原油価格の急上昇によるノイズを無視することの重要性について述べている。
パウエル議長は、「もし原油価格が高騰して、それがただ上下動するだけなら、実際に進行中のインフレに影響を与えることはない」と述べ、来たる3月15日~16日のFOMCで25bps(0.25%)の緩やかな引き上げに舵を切る理由を説明した。しかし、もし原油価格の上昇が続くようなら、「その時はまた別の話だ。後者の方がずっと心配だ」と付け加えている。
銀行大手UBSでは、原油が10ドル上昇すると、それは25~40bpsのインフレに相当すると見積もっている。パウエル議長の計算では、20bpsのインフレに相当するという。
米国の2月の消費者物価指数に対する悲観的見通し
パウエル議長がどう考えるかはともかく、木曜日に発表される米国2月の消費者物価指数の結果が慰めになるとは考えにくい。
市場コンセンサスは前年同月比7.9%のペースで上昇というものだ。そして多くのエコノミストは、これは保守的な見積もりかもしれないと考えている。1月のCPIの前年同月比7.5%はすでに1982年以来の高水準だった。
アナリストは原油価格が下がるにはさらに上昇するしかないと言っていることから、パウエル議長はいつまでも原油価格の上昇を無視することはできなくなるだろう。物価高の特効薬は物価高である、というコモディティ界だけに通じる格言ではなくなってきたようだ。ロシアの石油が既存の制裁によって事実上ブロックされている以上、価格は上昇せざるを得ない。
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(2019年に記録した)日量9,900万バレルの世界需要を賄うには、供給が足りない
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もう一つの主要生産国であるサウジアラビアは、値上げを止めないだろう。
サウジアラビアの国営石油会社Aramco (SE:2222)は先週金曜日の発表で、アジア向けアラブ軽油の公式販売価格(OSP)を、基準としているオマーン/ドバイ平均に対して1バレルあたり4.95ドルの過去最高値に引き上げた。
月曜のアジア取引で、原油の世界的なベンチマークであるブレント原油は1バレル約131ドルまで急騰し、金融危機に先立つ世界市場の混乱前の2008年7月に記録した、史上最高値147.50ドルにわずか17ドルしか及ばない水準にまで値上がりしている。
原油価格の高止まりは「需要破壊」まで続く可能性-それがいつになろうとも
ゴールドマン・サックスのエネルギー調査部長Damien Courvalin氏によると、ロシア産原油が米国で禁止されれば、今後3ヶ月で原油は1バレル150ドルに達するかもしれないとのことである。
JP モルガンは、ロシア産石油への制裁が年間を通して続く場合、ブレント原油は185ドルで2022年を終える可能性があると述べている。しかし年末時点で、そのような価格では、自由な道路走行や飛行機運行をするにはあまりにも高すぎるため、毎日約300万バレルの需要破壊が起こる可能性もあると、分析している。
月曜日の報道によると、米国はロシアの石油輸入禁止について、同盟国抜きで行動することを検討しているという。しかし、米国がロシアの石油を禁止する時期と規模はまだ不明である、と報道されている。
実は米国政府は、ロシアの石油輸出に対する制裁や全面的な禁輸措置について、明白な理由で足を引っ張っているのである。ロシアは2021年に日量1050万バレルを輸出し、そのうちの20%はアメリカ向けだけだったのだ。
米国政府がロシアの石油を禁止すれば、ガソリン1ガロンが今週中に4.50ドルを超え、金融危機前の2008年の最高値に達し、次は5ドルに向かって上昇を続ける可能性がある。さらに悪いことに、この高騰が食料品費に直接的に影響する。
また世界の原油の約10%、欧州の天然ガスの40%がロシアから輸入されている。つまり、アジアと欧州がロシアに対して米国と足並みの揃った行動を共にすることになれば、米国の痛みは各国へと波及する。
しかし、テクニカル分析では原油の買われすぎを示唆
原油の上昇の激しさにもかかわらず、月曜日に130ドル前後の高値をつけたブレント原油と米国産原油は、テクニカル上、ひどく買われすぎていることが示唆されている。
Skcharting.comのチーフ・テクニカル・ストラテジストのSunil Kumar Dixit氏は、「日を追うごとに、原油はまず95~105ドルのレンジで推移し、次のレッグは2008年の史上最高値147ドル、あるいは82-67ドルまで下がる可能性が近づいてきている」と話す。
金の場合、スポット価格の4時間足チャートは、2,000ドルの目標をクリアした後、すぐに2,034ドルを目標とするシンメトリカル・トライアングルの形成を上抜けしたと、同氏は述べている。
史上最高値は2020年8月につけた2073.41ドルである中、金スポットは、月曜日には2000.96ドルの高値をつけた。ニューヨークのCOMEXの金先物は、過去最高値の2,121.70ドルに対して、日中最高値となる2,005ドルに上昇した。
免責事項:バラニ・クリシュナンは、あらゆる市場の分析に多様性を持たせるために、自身以外の様々な見解を用いている。中立性を保つために、同氏は時に逆張りの見解や市場の変数を提示することがあります。同氏は執筆している商品および証券のポジションを保有していない。