【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。
中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。
関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。
考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
◆「難題を解決した」とすること自体が「最大のトウ小平批判」
11月13日のコラム(※2)に書いたように、まだ公報段階ではあるが、そもそも「歴史決議」に、「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」ということが盛り込まれていること自体が、最大のトウ小平批判なのである。
「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」の中で、「腐敗と闘わなかった」のは「トウ小平と江沢民」だけだ。
1989年6月4日に起きた天安門事件で若者が叫んだのは主として「民主」ではあるが、同時に党幹部の汚職、すなわち「腐敗」も批判の対象となっていた。
しかしトウ小平は党や政府を糾弾する若者たちの叫びを武力によって鎮圧し、「腐敗」を黙認している。
こうしてトウ小平の独断で中共中央総書記に指名した江沢民は、「金(かね)」によってしか権力を高める道がないため、「金を仲介とした縁故関係」によって中国を底なしの「腐敗地獄」へと持って行った。
その腐敗と闘おうとした胡錦涛を、江沢民はチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人。
筆者命名)に送り込んだ刺客によって封じ込め、腐敗をさらに蔓延させてしまった。
したがって習近平が「歴史決議」で「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」のはトウ小平に対する巨大な批判であり、トウ小平に対する「圧倒的な勝利」なのである。
これが、父親を破滅に追い込んだトウ小平に対する、習近平の「復讐の形」なのである。
少なからぬチャイナ・ウォッチャーは習近平の「歴史決議」には何も書いてないと評しているが、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の真相を知らない限り、習近平の「歴史決議」からは、何も読み取れないだろう。
ということは、習近平の正体を正確に読み解くことは出来ないということだ。
少なくとも『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書いた筆者の視点から見れば、六中全会の広報(※3)は、書ききれないほどの豊富な情報を含んでおり、興味深くてならない。
◆トウ小平を希薄化した、笑ってしまうような六中全会公報の「からくり」
実は六中全会公報(※4)を読んで、思わず声を出して笑ってしまった「からくり」がある。
というのも、11日に公報が初めて公表された時、筆者はナマで中央テレビ局CCTVの報道を見ていた。
すると、「江沢民」と「胡錦涛」への賛辞に関して、間をおいてから、もう一度類似のことを言ったではないか。
えっ?
なにごと?
聞き間違えたのか、それともCCTVが放送事故でも起こして、壊れたレコードのように同じ場所を2回繰り返してしまったのだろうか?
ひどく慌てて文字版を読んでみたところ、なんと、本当に江沢民と胡錦涛に関しては2回も言っていたことが判明した。
すなわち、「毛沢東→トウ小平→江沢民→胡錦涛→習近平」の順に建国後の指導者の業績を言った後に、もう一度「江沢民+胡錦涛」に関してだけは繰り返して業績を讃えたのである。
毛沢東に関しては中国共産党建党から建国前までの業績があるので、当然誰よりも多くなるが、「トウ小平、江沢民、胡錦涛」を平等に扱ったままだと、トウ小平を特に希薄化したことにならない。
そこで「江沢民+胡錦涛」をさらに、もう一度讃えれば、相対的に「トウ小平の部分」だけを「最小化」することができるわけだ。
面白くなってしまって、文字数を数えてみた。
すると以下のような結果が出てきた。
毛沢東建国前:493
毛沢東建国後:460
毛沢東全体:953
トウ小平:385
江沢民:285、2回目の201を加えると全体で285+201=486
胡錦濤:218、2回目の201を加えると全体で218+201=419
習近平:124+514+216=854(3段階に分けて言及)
(但し2回目の文字数は「江沢民+胡錦涛」402文字を2分した。
)
このように、結果として「トウ小平に関して論じた部分が最小になる」という、なんとも凄まじい「精緻な」計算をしていることに気づいたのだ。
笑わずにはいられないではないか。
それも「江沢民+胡錦涛」の部分は、この二人だけ2回繰り返して言ったことが目立たないように、二人を混然一体となる形で、つまり単独に繰り返したと分からないように工夫して論じている。
知能犯というか、「涙ぐましい」とさえ思ってしまった。
既に中国でも定着してしまっているトウ小平への評価を、真正面からは否定できないが、しかし実際上は否定するという工夫までしているところが興味深くてならない。
もっとも、トウ小平を神格化することに最も貢献したのは日本である。
そのことは拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の「まえがき」および「第七章の四」で詳述した。
日本政府は、トウ小平神話を形成することによって中国の経済発展に貢献した自民党政権の責任を直視し、自公連立政権で、さらにそれを助長しようとしていることを認識すべきだろう。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805
(※3)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm
(※4)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm
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中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。
関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。
考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、「習近平「歴史決議」——トウ小平を否定矮小化した「からくり」(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
◆「難題を解決した」とすること自体が「最大のトウ小平批判」
11月13日のコラム(※2)に書いたように、まだ公報段階ではあるが、そもそも「歴史決議」に、「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」ということが盛り込まれていること自体が、最大のトウ小平批判なのである。
「毛沢東、トウ小平、江沢民、胡錦涛、習近平」の中で、「腐敗と闘わなかった」のは「トウ小平と江沢民」だけだ。
1989年6月4日に起きた天安門事件で若者が叫んだのは主として「民主」ではあるが、同時に党幹部の汚職、すなわち「腐敗」も批判の対象となっていた。
しかしトウ小平は党や政府を糾弾する若者たちの叫びを武力によって鎮圧し、「腐敗」を黙認している。
こうしてトウ小平の独断で中共中央総書記に指名した江沢民は、「金(かね)」によってしか権力を高める道がないため、「金を仲介とした縁故関係」によって中国を底なしの「腐敗地獄」へと持って行った。
その腐敗と闘おうとした胡錦涛を、江沢民はチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人。
筆者命名)に送り込んだ刺客によって封じ込め、腐敗をさらに蔓延させてしまった。
したがって習近平が「歴史決議」で「長きにわたって解決したいと思ってきたが解決できなかった難題を解決した」のはトウ小平に対する巨大な批判であり、トウ小平に対する「圧倒的な勝利」なのである。
これが、父親を破滅に追い込んだトウ小平に対する、習近平の「復讐の形」なのである。
少なからぬチャイナ・ウォッチャーは習近平の「歴史決議」には何も書いてないと評しているが、『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の真相を知らない限り、習近平の「歴史決議」からは、何も読み取れないだろう。
ということは、習近平の正体を正確に読み解くことは出来ないということだ。
少なくとも『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』を書いた筆者の視点から見れば、六中全会の広報(※3)は、書ききれないほどの豊富な情報を含んでおり、興味深くてならない。
◆トウ小平を希薄化した、笑ってしまうような六中全会公報の「からくり」
実は六中全会公報(※4)を読んで、思わず声を出して笑ってしまった「からくり」がある。
というのも、11日に公報が初めて公表された時、筆者はナマで中央テレビ局CCTVの報道を見ていた。
すると、「江沢民」と「胡錦涛」への賛辞に関して、間をおいてから、もう一度類似のことを言ったではないか。
えっ?
なにごと?
聞き間違えたのか、それともCCTVが放送事故でも起こして、壊れたレコードのように同じ場所を2回繰り返してしまったのだろうか?
ひどく慌てて文字版を読んでみたところ、なんと、本当に江沢民と胡錦涛に関しては2回も言っていたことが判明した。
すなわち、「毛沢東→トウ小平→江沢民→胡錦涛→習近平」の順に建国後の指導者の業績を言った後に、もう一度「江沢民+胡錦涛」に関してだけは繰り返して業績を讃えたのである。
毛沢東に関しては中国共産党建党から建国前までの業績があるので、当然誰よりも多くなるが、「トウ小平、江沢民、胡錦涛」を平等に扱ったままだと、トウ小平を特に希薄化したことにならない。
そこで「江沢民+胡錦涛」をさらに、もう一度讃えれば、相対的に「トウ小平の部分」だけを「最小化」することができるわけだ。
面白くなってしまって、文字数を数えてみた。
すると以下のような結果が出てきた。
毛沢東建国前:493
毛沢東建国後:460
毛沢東全体:953
トウ小平:385
江沢民:285、2回目の201を加えると全体で285+201=486
胡錦濤:218、2回目の201を加えると全体で218+201=419
習近平:124+514+216=854(3段階に分けて言及)
(但し2回目の文字数は「江沢民+胡錦涛」402文字を2分した。
)
このように、結果として「トウ小平に関して論じた部分が最小になる」という、なんとも凄まじい「精緻な」計算をしていることに気づいたのだ。
笑わずにはいられないではないか。
それも「江沢民+胡錦涛」の部分は、この二人だけ2回繰り返して言ったことが目立たないように、二人を混然一体となる形で、つまり単独に繰り返したと分からないように工夫して論じている。
知能犯というか、「涙ぐましい」とさえ思ってしまった。
既に中国でも定着してしまっているトウ小平への評価を、真正面からは否定できないが、しかし実際上は否定するという工夫までしているところが興味深くてならない。
もっとも、トウ小平を神格化することに最も貢献したのは日本である。
そのことは拙著『習近平父を破滅させたトウ小平への復讐』の「まえがき」および「第七章の四」で詳述した。
日本政府は、トウ小平神話を形成することによって中国の経済発展に貢献した自民党政権の責任を直視し、自公連立政権で、さらにそれを助長しようとしていることを認識すべきだろう。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20211113-00267805
(※3)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm
(※4)http://www.news.cn/politics/2021-11/11/c_1128055386.htm
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