[31日 ロイター] - 自動車の納車遅延から家電製品の供給不足、さらには高額スマートフォンに至るまで、世界各地の関連企業や消費者が前代未聞の半導体不足の打撃に直面している。
不足の要因は多重的だ。たとえば自動車メーカーが昨年の新型コロナ大流行の最中に工場の操業を停止したこともある。ところが今は半導体供給を求めて幅広い家電業界と競争中だ。
消費者もコロナ禍で在宅用のノートパソコンやゲーム機のコンソールなどを買い漁ることになり、在庫不足をエスカレートさせた。自動車も、昨年春の時点で自動車メーカー幹部が想定していたよりも消費者が購買意欲を高めることになり、供給をさらに逼迫させた。
中国ハイテク企業に対するさまざまな制裁措置も半導体不足の危機の悪化につながっている。半導体不足は当初はもっぱら自動車業界で起きていたが、現在はスマホや冷蔵庫や電子レンジといった幅広い家電製品にも波及している。
半導体を使う製造業企業はどこもあわてて在庫積み増しに動いている。一方で半導体不足は生産能力を圧迫し、さらに最も安価だった部品価格さえも押し上げて最終製品価格に上昇圧力をかけている。
<自動車>
自動車は半導体への依存をどんどん高めている。燃費改善のためのエンジン制御コンピューターから、緊急ブレーキなどの運転支援機能に至るまで、用途は幅広い。
半導体不足の危機によって、多くの自動車メーカーはより利益率の低い車の生産抑制を余儀なくされた。米国のゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどの大手は減産を決定。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やSUBARU(スバル)、トヨタ自動車、日産自動車も既に同様の措置を取っている。
IHSマークイットによると、今年第1・四半期に自動車向け半導体の不足によって世界の小型自動車生産の130万台近くが打撃を受ける可能性がある。ルネサスエレクトロニクスの工場火災はさらに状況をひどくしたという。ルネサスの自動車向け半導体「マイコン」の世界シェアは約30%に上る。
米テキサス州を襲った大寒波の影響もある。韓国のサムスン電子やオランダのNXPセミコンダクターズやドイツのインフィニオンはこの影響で一時的に操業停止に追い込まれた。この操業中断も半導体不足に輪を掛けたとみられている。
<アジア要因>
半導体不足の根っこにあるのは、アジア勢が大半を所有する8インチのシリコンウエハー工場に対する投資不足だ。このため第5世代(5G)移動通信システム対応の携帯電話やノートパソコンへの需要が予想よりも急速に拡大した際に、企業はそうしたシリコンウエハーの増産に苦労することになった。
一方で、サムスンのスマホに半導体を供給する米クアルコムも、需要を満たし続けるのに必死だ。米アップルの主要サプライヤーである台湾の鴻海精密工業も、半導体不足が顧客への供給網に影響を与えると警告している。
半導体製造の大半は現在、アジアで行われている。台湾積体電路製造(TSMC)とサムスンといった大手受託製造業者が、何百もの半導体企業向けの生産を担っている。
米半導体企業は売上高では世界の半導体の47%を占めるが、実際に米国内で製造されている半導体は世界全体のわずか12%だ。
<対応措置>
シリコンウエハー工場をつくるには何百億ドルもかかる。生産能力を拡張するにしても、複雑な製造設備を試験操業し品質を確実にするには最大1年かかる。
バイデン米大統領は自国の半導体製造業の増強のため370億ドル(約4兆988億円)の予算化を議会に求めている。米国で現在予定されている半導体工場は4カ所。アリゾナ州で米インテルが2カ所、TSMCが1カ所。テキサス州でサムスンが1カ所だ。。
中国も西側諸国への技術依存をなくしていこうと、自国の半導体産業に多額の補助金を出している。