悪材料の集中により、株式、為替市場は下落となった。木曜日の米国市場は大荒れとなり、USD/JPYは1ヶ月ぶりの安値まで下落、ダウ工業株30種平均は1日で750ポイント以上の下落となった。株式市場は終わりにかけて反発となったが、投資家のリスク回避姿勢は未だ残っている。
今回の売り気配は米国債利回りの下落から誘発されたと考えられる。米国10年債利回りは月曜日に3%をマークしていたが、インフレ懸念や経済成長への懸念から2.9%を下回る水準へと下落した。だが、株式市場やアジア通貨市場の下落を招いた本当の要因としては、ファーウェイ(Huawei)のメン・ワンツォウCFO兼副会長の逮捕にあると考えられる。ファーウェイは中国の大手テクノロジー企業であり、メン氏は創業者の娘にあたる。同氏の逮捕による驚きや憤りが広がっており、中国政府は同氏の即時釈放を求めている。
トランプ米大統領は中国との貿易交渉に前向きである姿勢を見せているようだったが、今回の逮捕報道を受け、その本心は疑問視される、と報道紙は伝えている。中国との貿易交渉や和解に矛先が向かっているのではなく、逆に米国政府は中国に対して厳格な姿勢を表しているのだ。貿易交渉は難航すると考えられ、米中関係の悪化懸念によって木曜日の相場は下落した。今後90日間で米中両国が合意に達する見通しが立たなくなり、追加関税発動の恐れが出てきたため、株式、為替市場は大きく下落することとなった。
米経済指標も好材料とはならなかった。新規失業保険申請件数は上昇し、ADP雇用者数は予想を大きく下回る結果となった。転職斡旋会社のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社(Challenger, Gray & Christmas)による統計によると、11月の失業者数は前年比51.5%となっている。貿易収支赤字が拡大する一方、製造業受注件数と耐久財受注は下落となった。唯一の好材料はサービス業の景況感を表す、ISM非製造業景況指数が60.3から60.7へと上昇したことだ。しかしISM非製造業雇用指数は低下している。
金曜日発表予定の雇用統計に好調な指標は出ないと考えられる。11月に回復を見せた雇用統計が再び減速すると考えられる理由は次の通りである。ADP社による雇用統計が大きく鈍化しただけでなく、新規失業保険申請件数の4週間移動平均は上昇し、消費者信頼感指数は下落しているのだ。そして最も重要な点として、ISM非製造業雇用指数が下落していることが挙げられる。米国の労働市場は経済状況を表す指標の一部であるが、直近2ヶ月間の株式市場の急落によって、今後の米国企業の雇用は消極化する恐れがある。エコノミストは今後の雇用者数の伸びは低迷すると考えており、その場合、ドル安がさらに進む可能性がある。市場センチメントが賃金上昇率の予想と乖離しているため、賃金上昇率の動向も重要な指標となってくる。エコノミストは賃金が今後上昇すると見込んでいるが、上昇しなかった場合、ドル売りがさらに進み、USD/JPYは112円をマークする可能性がある。
賃金上昇となるシナリオ
1. ISM製造業の雇用指数が56.8から58.4へと上昇した場合
2. 失業保険申請件数が167万件から163万件へと下落した場合
賃金下落となるシナリオ
1. ADP雇用者数が22万5000人から17万9000人へと下落した場合
2. ISM製造業の雇用指数が59.7から58.4へと下落した場合
3. チャレンジャー社(Challenger)の人員削減数が51%増加した場合
4. 4週間平均 新規失業保険申請件数が21万3000件から22万8000件へと増加した場合
5. アメリカ ミシガン大学消費者信頼感指数が98.6から97.5へと下落した場合
6. 消費者信頼感指数が137.9から135.7へと下落した場合
米中貿易戦争によって市場への警戒感がもたらされたとすれば、豪 ドルが日中の最もパフォーマンスが悪い通貨であったことも当然のように思われる。オーストラリアの貿易黒字が縮小するといったように、直近の豪経済指標は弱含んでいる。小売売上高が上昇したものの、悪材料やリスク回避といった影響から経済指標は失速している。テクニカル分析的には、AUD/USDが11月初旬ぶりに20日移動平均線を下回り、0.71米ドルへと繋がる可能性が高くなっている。
NZ ドルは豪ドルとともに下落となったが、カナダ ドルトレーダーにとっては別の懸念材料が存在している。OPEC総会初日は明確な結論が出ることなく終了したが、OPECとロシア間における減産量で溝が生じており、原油価格は2%の下落となった。また、カナダ銀行のポロズ総裁はタカ派的な発言を行わなかった。同氏は「10月以降の経済指標は鈍化しており、現在の政策金利は適正な水準と思われる」と発言している。カナダ銀行は原油と米中貿易戦争の動向を懸念しているが、原油価格の下落によってカナダ経済にどのくらいの影響を及ぼすのか、より検討しなければならない。こういった観点により、カナダ銀行は追加利上げを急ぐとは考えにくい。OPEC総会や米国、カナダの雇用統計はUSD/CAD相場に影響を与えうるため、市場は金曜日のこれらの動向に焦点を当てている。
一方、ユーロ、ポンド市場は米ドルに対して高値での取引となった。EUR/USDへの好材料がないため、小幅推移を続けている。ポンドトレーダーは、メイ英首相のブレグジット(英国のEU離脱)合意案が英議会で承認されるのかどうか様子見ムードとなっている。メイ首相は12月11日の英議会での採択によってブレグジット合意案の明暗が分かれると述べている。一方、EU司法裁判所は、合意案が投票される前にEU離脱手続きが可能であるか判断を下すとみられる。来週にもブレグジット、ポンド、メイ首相の明暗が分かれるため、それまでは持ち合い相場が続くとみられる。