年初来、投資家はユーロを売り続けてきた。欧州中央銀行(ECB)は本日、政策金利の発表を行う予定である。多くの市場参加者は、ECBが最近の好調なサービス業や小売売上高を認めることを期待しており、ユーロ/米ドルは利食いを背景に反発している。しかし、ECBには6つの懸念が存在しており、過去数か月に渡って際立った進展を見せていない。米国は欧州への新たな関税措置を検討している。米国が新たに導入する110億ドルの関税には自動車に加えて、チーズやワインへも対象となる。EUも報復関税の準備ができていると述べ、これらの問題はユーロを下押ししている。一方、欧州やドイツにおける弱い経済成長により、イタリアは景気後退の真っ只中にいる。そして、ユーロ圏や世界経済にとって深刻な懸念となっている米中貿易やブレグジット交渉にも目立った進展は見られない。また、原油価格やユーロの反発にも関わらず、インフレ率は低下している。
ECBの6つの懸念
1. 自動車への関税
2.イタリアの景気後退
3. ブレグジット
4. 米中通商協議
5. 保護主義、世界経済
6. 低いインフレ率
ECBが堅調な経済指標に言及することでユーロが上昇するとは考えにくいだろう。ECBには懸念が多すぎるのだ。前回のECB理事会では、マリオ・ドラギ総裁が懸念点へ言及したことでユーロ安となった。現在のユーロは短期的には上昇する兆しを見せているので、前回ほど下落することはないと見られる。ドラギ総裁がネガティブな発言をした場合、ユーロは下落するであろうが、それでもユーロ/米ドルは3月の安値である1.1176で持ちこたえるだろう。しかし、ポジティブなサインが見られた場合は、1.1350まで上昇すると考えられる。我々は依然として下落するリスクがあり、1.10に近い水準でユーロ/米ドルは取引される可能性があると考えている。
以下の図は前回のECB理事会から、欧州経済がどのように変化したかを示している。
本日の欧州首脳会談では6月30日までのブレグジット延期について議論されるので、英ポンドも注目を集めるだろう。テリーザ・メイ英首相はベルリンやパリの訪問で何の成果も得られなかったが、一部報道によると、延期の要請に対して反対意見は見られていないとのこと。一方、EUのミシェル・バルニエ氏は、EU離脱協定は再交渉の対象にはならないと述べた。また、労働党はメイ政権が関税同盟の締結に応じておらず、議会は現在の離脱案を認可するしか選択肢がないと述べた。メイ首相は離脱案への支持が高まっていると主張しているが、我々に確かなことはいつ再び投票が行われるかである。ポンド/米ドルは1.30を上回って取引されており、投資家は延期が認可されることを織り込んでいる。
一方、米ドルは主要通貨に対して値を下げて取引されている。米ドル/日本円は111を下回った。下落している要因の大半は、米経済指標の発表を前にリスク回避の動きとなっているからであろう。5日の雇用統計が決して良い結果とは言えず、2019年に利上げを行わないというFRBの主張は説得力が高まった。10日(現地時間)は消費者物価指数やFOMC議事要旨の発表を控えており、ドルにとって重要な局面となるだろう。原油価格やガス価格の上昇によりインフレ圧力は高まっているだろうが、FOMC議事要旨はハト派的であろう。