WTI原油は乱高下が続いている。28日には6月限が大幅に売られ、約20%安となった。米国の一部の州は29日、原油需要の減少を引き起こしている規制の緩和に乗り出している。また、米原油在庫量の増加が予想を下回った。これらを受け、29日のWTIは約30%高となった。
しかし、WTIとブレント原油はともに深刻に落ち込んでいる。原油価格が大幅に回復するのは、原油需要がほぼ完全に回復してからであろう。
経済活動が滞る前の世界における原油需要は、日量約1億バレルであった。今後、需要が完全に回復するまでには数か月はかかる見込みである。これまで、これほど大きく需要が減少したことはないため、需要の回復を正確に予想することは難しいだろう。
一方、原油市場へ影響を与える要因として、供給量もある。現在の原油は大幅に供給過多となっており、さらに産油量を削減したとしても、原油価格が大きく上昇することはないだろう。
ここでは、産油国の減産の現状と今後予想される展開を紹介する。
サウジアラビア
サウジアラビアにおける4月の原油生産量は日量1200万バレルを記録した。しかし、5月と6月に平均日量850万バレルまで減産するとの公約を達成するため、サウジアラムコ (SE:2222)は今週初めに減産を開始した。しかし、サウジアラビアは今後、供給過剰で立ち往生する可能性がある。実際、米国はタンカー7隻分のサウジ産原油の注文をキャンセルしている。とはいえ、サウジアラビアは、5月と6月のOPECプラスの公約を完全に遵守することが見込まれる。歴史的に見ても、サウジはOPECの公約を遵守しており、サウジアラムコにとって減産は難しくないだろう。
ロシア
ロシアは5月と6月に平均日量200万バレルの減産を実施することで合意したが、その実施は困難を極めている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、シベリアの石油パイプラインは、十分な量の石油を運ばなければ、凍結する危険性があるという。さらに、古い油井の多くは、生産が停止した場合、生産の再開が困難になる可能性があるとのこと。
ロシアには複数の原油生産企業があり、削減量は比例して割り当てられる予定である。しかし、一部の生産企業はロシアエネルギー省に対して、減産の免除を求めている。ロシアのタトネフト (MCX:TATN)は40%の油井を閉鎖する計画を発表したが、他の企業は口を閉ざしている。ロシアは過去、OPECプラスの公約を遵守できなかったこともあり、日量200万バレルの減産は難しいだろう。
クウェート
S&P Global Plattsによると、クウェートは3月に日量290万バレルを生産した。23%の減産を約束し、4月23日に減産を開始した。
ブラジル
OPECプラスのメンバーではないブラジルは、4月10日のG20エネルギー大臣会合にて、減産の実施を名言しなかった。G20での公式声明では「エネルギー市場の安定性を確保するために必要なすべての緊急措置を取る」と述べたに留まった。ブラジル国営のペトロブラス (NYSE:PBR)は4月1日、日量20万バレルの減産を計画していたが、28日には重油への強い需要を理由に撤回した。
米国
米国は日量1300万バレルを生産している。米エネルギー情報局(EIA)4月29日、24日の週の原油生産量が日量1210万バレルであったことを明らかにした。EIAは4月初旬、産油量が日量200万バレル減となることを予想していたが、この予想の正確性については疑問視されている。RystadEnergy社は、米エネルギー企業6社からの情報に基づき、5月と6月に原油生産量が日量30万バレル減になると予想した。
テキサス州鉄道委員会(TRC)が州内の原油生産量を20%減とすることに賛成した場合、生産量はさらに減少する可能性がある。その場合、テキサス州は1バレルあたり1000ドルの罰金を課すだろう。同委員会の委員3人は公聴会の後、この提案について投票を行う。委員の1人はこの提案を支持し、もう1人は反対を表明し、3人目は立場を名言していない。オクラホマ州とノースダコタ州の規制当局は、TRCが生産規制に反対票を投じた場合、これらの州でも同様の規制を検討する可能性がある。
カナダ
過去数年間に渡って、大量のカナダ産原油が輸送上の問題から市場で取引されてこなかった。一部の予想では、カナダの原油生産量は何もしなくとも日量100万バレル程度減少すると見られている。
ノルウェー
ノルウェーの原油生産量は国営原油会社のエクイノール (NYSE:EQNR)が管理しており、日量約210万バレルとなっている。ノルウェーの石油相は21日、「自主的に減産するかどうかは定かではない」としていた。その後29日には、6月から日量25万バレル、2020年下半期に日量13万4000バレルの減産を表明した。