米連邦準備制度理事会(FRB)は本日、資産買い入れ額を月600億ドル縮小する計画を発表し、インフレとの闘いに対して大きな一歩を踏み出した。11月には月150億ドル、12月には300億ドルの資産買い入れの削減を発表していた。また、2021年と2022年のインフレ率の見通しを引き上げた一方で、来年の失業率見通しを引き下げた。2022年のGDP成長率は上方修正されたものの、今年の成長率は下方修正された。「堅調な」雇用増とインフレ率の「上昇」レベルにより、来年の利上げを支持するFRB関係者が増えている。実際、政策担当者18人中12人が来年は3回の利上げを見込んでおり、これは9月よりもはるかに積極的なスタンスだといえる。さらなる利上げ観測はドル高・株安を招くはずだったが、代わりに株式が上昇し、米ドルはFOMC後の上昇基調は弱かった。
米国の小売売上高は予想を大きく下回る結果となった。11月の個人消費は0.3%増で、予想の半分以下だった。自動車とガソリンを除いた支出は0.2%の増加に留まった。供給不足と価格高騰が需要に悪影響を与え始めている。米ドルのトレーダーは、前年同月比では個人消費者の支出が依然として非常に好調で、多くの小売業者が消費者にコスト増分を転嫁できていたため、FOMCを前にこの軟調な結果には肩透かしとなった。製造業が引き続き好調であることを反映して、12月の全米製造業調査は改善している。
今後は、ECB(欧州中央銀行)とBOE(イングランド銀行)の金融政策発表が焦点となる。欧州の経済成長率は米国よりも早くにピークを迎え、ドイツの小売売上高は10月にエコノミストが期待したほどプラスに転じず、工場受注は減少し、ユーロ圏の鉱工業生産は予想を下回るなど発表されている経済指標はいずれも軟調な結果となった。英国は相対的に好調だったが、最新の労働市場の数値はまちまちで、PMI(購買担当者景気指数)は下方修正された。コロナの感染者が急増するなか、ドイツや英国など欧州の多くの国で規制を復活させた。このように先行きが不透明な中、両中央銀行が新年に向けて慎重な見通しを維持することは賢明なことだろう。
しかし、ECBとBOEにとってインフレは喫緊の課題であり、躊躇するわけにはいかない。水曜朝、英国の消費者物価上昇率が5.1%と10年ぶりの高水準に達したことが明らかになったが、米国の経済データの傾向から推測すると、生活費の上昇が懐を圧迫し、個人消費が大きな打撃を受ける可能性がある。先月、英国の多くの政策担当者が利上げの時期が早まる可能性を示唆したが、オミクロン株の出現がより大きな問題となるにつれ、利上げ議論はさめてしまった。今問われているのは、短期的な経済への影響を超えて、スタグフレーションの可能性という、より根深い問題に目を向けるかどうかである。BOEはオミクロン株のリスクを認識し、それが一時的なものであることを示唆し、金融緩和の早期解除が依然として必要であることを主張すると思われる。経済見通しに関する発言はないため、BOEの会合はECBほど市場を影響を与えずに済むと思われる。
ECBはBOEと同様にインフレおよび経済見通しの不透明感に直面しているが、それをどう解釈するかはあまり定かではない。ECBは他の中央銀行とは異なり、インフレ圧力の上昇をそれほど懸念しておらず、11月のCPI(消費者物価指)が前年比で過去最速のペースで上昇したにもかかわらず、上昇は一過性であると主張している。明日の大きな注目点は、インフレに対するスタンスに変化があったかどうかだ。FRBのように 「一過性」という表現を撤回するだろうか。資産買い入れ額を縮小させるだろうか。ECBのラガルド総裁は、9月に債券購入のペースを落としたとき、「the lady isn't tapering (私はテーパーリングは行わない)」と言ったことを思い出してほしい。
経済予測も改められるだろう。もしECBが警戒を怠らず、緩和的な見通しを維持し、インフレは一過性であるとの見方を確認し、オミクロン株による経済停滞リスクに焦点を当てるならば、ユーロは対米ドルで1年半ぶりの安値を更新する可能性がある。他の国々と同様にインフレへの対応を強化する方向に向かう場合には、トレーダーはショート・ポジションを買い戻すため、大きく売られすぎたEUR/USDは急速に回復するだろう。政策金利決定の前に、ユーロ圏と英国のPMIが発表される予定だ。この結果はECBとBOEの政策金利、金融政策発表に向けたポジショニングに影響を与えるため、これらの経済指標のを巡ってはかなりのボラティリティが発生する可能性がある。