Humeyra Pamuk Jonathan Saul Maggie Fick
[ワシントン/ロンドン/ベイルート 5日 ロイター] - イスラエルがパレスチナ自治区ガザ南部でイスラム組織ハマスへの攻撃を再開するとともに、民間人の死者が急増しつつある。
これを受けバイデン米政権はイスラエルに対して、民間人の犠牲者を最小限にとどめるよう働きかけを強めている。ただ、武器支援の制限など、イスラエルに聞く耳を持たせるための「力ずく」の手段が行使される公算は、今のところ非常に小さい。
ハリス副大統領やブリンケン国務長官らの政権要職者は、ガザ南部でもっと攻撃目標を絞り込んで多数の民間人犠牲者を出さないよう、これまでも公式ルートではイスラエルに要請してきた。
ガザの保健当局によると、戦闘の一時停止期間が終わった1日から4日までに、イスラエルの空爆によりガザでは約900人が死亡。これはハマスがイスラエルを奇襲攻撃した10月7日からの4日間に発生したガザでの死者数にほぼ等しい。
それでも米政府は現在、イスラエル向け武器支援の実行を保留したり、イスラエルに厳しい非難を向けたりすることで、イスラエルの方針を変える手段とすることを否定している。2人の米政府当局者に理由を聞くと、水面下での働きかけが有効に作用しているからだという。
ある米政府高官は「われわれの行っていることが、イスラエルを動かしていると思う」と語り、ガザへの支援物資提供を拒否していたネタニヤフ首相が、1日200台近くのトラックによる物資搬入を認めたのがその一例で、これらは米国が脅したからではなく、外交的に強く呼びかけた結果だと説明した。
この高官が口を開く前の3日間、ガザ市民は空爆で生じたがれきから犠牲者の遺体を運び出す作業に追われ続けた。
しかし、同高官はイスラエル向けの武器支援を減らすのは重大なリスクを伴うと主張。「イスラエルへの支援を弱めれば、他の勢力が紛争に介入するのを助長するし、抑止効果が低下してイスラエルの敵を勇気づける」と述べた。
米国はイスラエルを揺るぎなく支持すると表明し、イスラエル政府は軍事戦略を修正してほしいという国際社会の要請には全く反応していないように見える。
ネタニヤフ氏の外交顧問は先週、ロイターの取材に応じ、イスラエルに対する国際的な圧力についての質問には「首相は何もプレッシャーを感じていないと認めざるを得ない。われわれは軍事的な目標達成のためにできることは何でもやる」と改めて言い切った。
<大きな影響力>
米国は毎年、戦闘機からハマスの地下トンネルを破壊できるほどの強力な爆弾まで、イスラエルに総額38億ドルの軍事支援を行っている。バイデン政権はさらに議会に対して、140億ドルの追加支援承認を求めているところだ。
ザ・プロジェクト・オン・ミドルイースト・デモクラシーのセス・バインダー氏は、こうした支援によって米政府はイスラエルの戦争遂行に関して「大きな影響力」を持っており、特定装備の提供停止やさまざまな武器の補充延期などを通じてイスラエルに戦略と戦術の修正を強制できるのに、バイデン政権はそれを使うことに消極的な態度しか示していない、との見方を示した。
バイデン大統領に重くのしかかるのは、来年の米大統領選。イスラエル向け支援を削減すれば、再選に必要な親イスラエルの無党派層の票が逃げかねないという事情がある。
イスラエル政府の安全保障分野の高官の1人は、これまでのところ米国のイスラエル支持姿勢に変化はないと強調。「現段階では(共通の)理解と継続的な協力関係が存在している」と述べ、今後、米国の方針が変わるならば、イスラエルは作戦のスピードを加速させて迅速に目的を達成しなければならなくなると付け加えた。
<暗黙の了解>
イスラエルの複数の当局者は、ガザ南部で進めている軍事作戦において、戦闘地域から非戦闘員が避難するための時間を増やしているが、民間人の犠牲者をゼロにするとは約束できないと話している。
政府報道官は「われわれはハマスを壊滅させる作戦を続ける。この作戦について米国は、われわれに暗黙の了解を与えている」と述べ、ハマスが女性や子どもを人間の盾に使っているという従来のイスラエル側の主張を繰り返した。
1日にはイスラエル軍が、オンライン上に精密な区画地図を投稿し、ガザ南部のパレスチナ人が地中海沿岸やエジプト国境近くのラファに避難するよう指示。ただ、一部市民は、安全地帯と言われた場所も砲火にさらされ、犠牲者が生じたと訴えている。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、イスラエルが安全地帯を攻撃しない方針を順守することを米国は期待すると語った。
もう1人の米政府高官によると、イスラエルが民間人の立ち入りを避けるべき地域をより丁寧に説明するようになったのは米国の圧力が効いているからで、米政府としてはイスラエルがガザ南部でより精密な攻撃を行うよう望んでいるという。
それでもイスラエルが、そうした米国の助言を本当に受け入れたと断言するのは時期尚早と言える。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのオマル・シャキール氏は「全ての兆候や報道からは、イスラエルによる攻撃再開後に同じパターン、つまり人口密集地に大型爆弾投下と砲撃が行われている構図に変わりはないことがうかがえる」と述べた。